ITTO年次市場ディスカッション、熱帯林のための炭素市場の可能性を探る

2022年ITTO年次市場ディスカッションの演壇。写真:Y. Kamijo/ITTO

2022年11月8日、横浜:森林炭素の市場は急速に成長しており、大きな可能性を秘めています。しかし炭素価格の低さやその他の課題によって、熱帯林とそのステークホルダーに利益をもたらす力が抑制されています。これは、第58回国際熱帯木材理事会のセッションの一部として本日開催されたITTO年次市場ディスカッションから浮かび上がった重要なメッセージです。

年次市場ディスカッションは、熱帯木材貿易の主要な動向と課題を理事会メンバーに伝え、政府や貿易業者および他のステークホルダーの理解を深める手段として、伝統的に理事会における委員会の合同セッションの一部として開催されています。今回のディスカッションでは、炭素排出権の取引と熱帯林をテーマに、5人の講演者の登壇とフロアからの参加のもとで実施されました。議長は、貿易諮問グループ(TAG)の共同コーディネーターであるバーニー・チャン氏が務めました。

国連開発計画(UNDP)のセリーナ(キン・イー)ヨン氏は、国連気候変動枠組条約第26回締約国会合(COP26)で気候変動に関するパリ協定第6条が明確にされたこともあり、自主的炭素市場での取引が大幅に増加したと述べました。また、自主的炭素市場は、移行プロセスにおいて重要な役割を果たすと考えられるが、上辺だけ環境に良いように装う「グリーンウォッシュ」のリスクも懸念されると続けました。

ヨン氏は、統合性の高い森林炭素クレジットの需要が高まっているが、炭素価格はまだ自然林の維持と統合性の高い市場の真のコストを反映していないと述べるとともに、統合性の高い炭素市場とは、炭素クレジットの二重計上を避け、排出削減が事実であることを保証し(つまり「グリーンウォッシュ」を回避し)、人権を尊重するものであると指摘しました。

ブラジルのコンサルティング会社STCPのイバン・トマセリ博士は、ラテンアメリカにおける炭素市場の発展について調査を行いました。同地域では、様々な経済セクターや、排出削減やネット・ゼロ・エミッションの達成を目的とした国家間の取引において、炭素市場への関心が高まっています。アルゼンチン、チリ、コロンビア、メキシコはコンプライアンスに基づく炭素価格決定手段のトップランナーであり、ブラジルは主に木材生産用に経営された森林で自発的な炭素プロジェクトを推進しています。

トマセリ博士は、ラテンアメリカで木材生産用に経営されている既存の森林地帯の炭素クレジットについて、潜在的な年間価値を約20億ドルと見積もったが、需要の増加により価格が上昇すれば、価値はさらに大きくなるだろうと述べました。

フランスの環境コンサルティングTEREAのピエール・シューラー氏は、コンゴ盆地で活動する企業の間で森林炭素取引への関心が高まっているが、関係するメカニズムや炭素取引に従事するための規則や基準についてよく理解している人はほとんどいないと報告しました。また、REDD+はアフリカの多くの国で資金獲得の機会を得られるようになり、森林炭素プロジェクトに取り組むプロジェクトの例も出てきていると述べました。例えば2021年には、ガボンがアフリカで初めて、森林減少と森林劣化による排出量の削減に対する成果ベースの支払いを受ける国になりました。

シューラー氏は、アフリカで森林炭素プロジェクトを拡大するための主な課題は、そうしたプロジェクトの技術的な障壁を取り除くことと、得られた炭素クレジットの所有権を決定することだと指摘しました。また、ITTOのような国際機関は、アフリカでの理解と技術能力の向上させる役割を担うと述べました。

ペルーのウィリアム・リャクタヨ氏は、機械学習と光による検知と測距(LIDAR、リモートセンシング法)と空間・時間分解能の高い衛星画像を組み合わせて、1ヘクタール単位で地上部の炭素を推定するペルーの新しい研究成果について説明しました。

LIDARサンプリング、戦術的に配置されたフィールド上のキャリブレーション装置、衛星データ、地理統計モデリングアプローチを戦略的かつ費用効果が高くなるように組み合わせることで、ペルーのような広大で環境的に複雑な国でも、地上部の炭素蓄積量についての高精度の情報一覧の取得が可能であることが示された、とリャクタヨ氏は述べました。

ニュージーランドのCarbonCrop社のニコラス・ブッチャー氏も、人工知能、リモートセンシング、自動制御装置を使って、ニュージーランドの森林炭素蓄積量の変化を監視する統合的ソリューションについて報告しました。

ブッチャー氏は、この技術をニュージーランドに適用した結果、生物多様性に富んだ森林が3万ヘクタール追加登録され、土地所有者に3,000万ニュージーランド・ドルの炭素クレジットを提供することができたと述べ、この技術は、他の地域でも適用可能であると続けました。

プレゼンテーションの後、持続可能な森林経営の財務的実現性を高める手段としての、森林炭素が自主的炭素市場やコンプライアンス・メカニズムを通じて森林に大きな収益をもたらす可能性などについて、代表者と講演者の間で幅広い意見交換が行われました。プレゼンテーションの内容はこちらからご覧いただけます(英語)。年次市場ディスカッションの全セッションは、こちらのYouTubeでご覧いただくことができます(英語)。


貿易諮問グループの声明

TAGの共同コーディネーターであるボブ・テイト氏は、年次市場ディスカッションの直後に、TAGを代表して声明を発表しました。貿易諮問グループは、ITTOの政策とプロジェクトにインプットを提供するために、2000年に設立されました。熱帯林産業、木材輸出業者、輸入業者、木材貿易・産業コンサルタント、貿易・産業協会の代表者など、熱帯木材貿易に関心を持つ人なら誰でも参加できます。

声明の中でTAGは、欧州理事会と欧州議会で審議中の森林破壊に関する法律案について、特に熱帯の国々にとって貿易障壁となる危険性があるとして懸念を表明しました。テイト氏は、TAGが「EU(欧州連合)は、これらの新規制(草案)を自由で公正な貿易に歯止めをかけるために用いるのを避け、EU域外を含む関係者とのコミュニケーションを改善し、企業が遵守に向けて直面する課題を確認すべきである」と信じていると述べました。

TAGの声明はまた、信頼できる情報の欠如が、熱帯地方における産業用植林地の設置率の妨げになっていると主張しています。TAGはITTOに対し、ITTO生産加盟国における既存の植林地の調査を実施し、植林地に関するデータベースを構築して、植林地設置に関する商業的意思決定を支援するよう要請しました。

声明では、ITTO生産国は未だ自主的な森林カーボンオフセット市場から大きな利益を得ていないことも指摘されました。

「生産加盟国には、この機会に関する情報とガイダンスを普及させ、同時に戦略的アドバイスと技術支援を提供することが切実に求められている」と、声明は述べています。TAGはITTOに対し、技術トレーニングワークショップを開催し、「加盟国の弱点や欠点に対処し、加盟国が気候変動緩和に参加しながら、国の収入を増やすことができるようにする」よう要請しました。

TAGの声明の全文はこちらでご覧いただけます(英語)。

国連開発計画(UNDP)のセリーナ(キン・イー)・ヨン氏。写真:Y. Kamijo/ITTO
イバン・トマセリ氏(STCP、ブラジル)。写真:Y. Kamijo/ITTO
ピエール・シューラー氏(TEREA、フランス)。写真:Y. Kamijo/ITTO
ウィリアム・リャクタヨ氏(ペルー)。写真:Y. Kamijo/ITTO
ニコラス・ブッチャー氏(CarbonCrop、ニュージーランド)。写真:Y. Kamijo/ITTO
2022年ITTO年次市場ディスカッションで発言するマレーシアの代表者。写真:Y. Kamijo/ITTO
2022年ITTO年次市場ディスカッションで発言するトーゴの代表者。写真:Y. Kamijo/ITTO
2022年ITTO年次市場ディスカッションで発言するアメリカの代表者。写真:Y. Kamijo/ITTO
2022年ITTO年次市場ディスカッションで発言するドイツの代表者。写真:Y. Kamijo/ITTO