ITTO年次市場ディスカッション、熱帯林のための炭素市場の可能性を探る

“排出量取引と熱帯林”をテーマに、貿易諮問グループが開催したITTOの年次市場ディスカッション。写真:Y. Kamijo

2022年11月8日、横浜: 森林炭素の市場は急速に成長しており、大きな可能性を秘めています。しかし炭素価格の低さやその他の課題によって、熱帯林とそのステークホルダーに利益をもたらす力が抑制されています。これは、第58回国際熱帯木材理事会のセッションの一部として本日開催されたITTO年次市場ディスカッションから浮かび上がった重要なメッセージです。

年次市場ディスカッションは、熱帯木材貿易の主要な動向と課題を理事会メンバーに伝え、政府や貿易業者および他のステークホルダーの理解を深める手段として、伝統的に理事会における委員会の合同セッションの一部として開催されています。今回のディスカッションでは、炭素排出権の取引と熱帯林をテーマに、5人の講演者の登壇とフロアからの参加のもとで実施されました。議長は、貿易諮問グループ(TAG)の共同コーディネーターであるバーニー・チャン氏が務めました。

2022年年次市場ディスカッションの全容はこちらからご覧いただけます(日本語)。

【貿易諮問グループ(TAG)の声明】

TAGの共同コーディネーターであるボブ・テイト氏は、年次市場ディスカッションの直後に、TAGを代表して声明を発表しました。TAGは、ITTOの政策とプロジェクトにインプットを提供するために、2000年に設立されました。熱帯林産業、木材輸出業者、輸入業者、木材貿易・産業コンサルタント、貿易・産業協会の代表者など、熱帯木材貿易に関心を持つ人なら誰でも参加できます。

声明の中でTAGは、欧州理事会と欧州議会で審議中の森林破壊に関する法律案について、特に熱帯の国々にとって貿易障壁となる危険性があるとして懸念を表明しました。テイト氏は、「EU(欧州連合)は、これらの新規制(草案)を自由で公正な貿易に歯止めをかけるために用いるのを避け、EU域外を含む関係者とのコミュニケーションを改善し、企業が遵守に向けて直面する課題を確認すべきである」とTAGでは考えている、と述べました。

TAGの声明はまた、信頼できる情報の欠如が、熱帯地方における産業用植林地の設置率の妨げになっていると主張しています。TAGはITTOに対し、ITTO生産加盟国における既存の植林地の調査を実施し、植林地に関するデータベースを構築して、植林地設置に関する商業的意思決定を支援するよう要請しました。

声明では、ITTO生産国は未だ自主的な森林カーボンオフセット市場から大きな利益を得ていないことも指摘されました。

「生産国メンバーには、この機会に関する情報とガイダンスを普及させ、同時に戦略的アドバイスと技術支援を提供することが切実に求められている」と、声明は述べています。TAGはITTOに対し、技術トレーニングワークショップを開催し、「加盟国の弱点や欠点に対処し、加盟国が気候変動緩和に参加しながら、国の収入を増やすことができるようにする」よう要請しました。

TAGの声明文の全文はこちらからご覧いただけます(英語)。

年次市場ディスカッションの直後に、TAGを代表して声明を発表したTAG共同コーディネーターのボブ・テイト氏。写真:Y. Kamijo/ITTO
年次市場ディスカッションの議長を務めたTAG共同コーディネーターのバーニー・チャン氏。写真:Y. Kamijo/ITTO

【隔年評価報告】

委員会の合同セッションの一環として、コンサルタントのフラン・メープルスデン氏が、ITTOの「世界の木材状況に関する隔年評価報告書」(理事会議題18)に関する中間報告を行ないました。この定期報告書は、世界の木材生産と貿易に関する最新で信頼できる国際統計を熱帯地域に重点を置いて編集したものです。

メープルスデン氏は例年通り、最新の熱帯木材貿易と生産データの分析から得られた初期の所見について発表しました。隔年評価報告書の最終版は、メンバーとの更なる協議を経て2023年に発行される予定です。メープルスデン氏によると、熱帯木材製品の貿易は、2020年初めのCOVID-19の感染拡大開始時の予想よりも回復力があり、特に二次加工木材製品の貿易において顕著でした。しかし、2022年の世界経済に対する多くのショックにより、熱帯木材製品市場の雲行きが怪しくなる可能性が高いと見込まれています。特に、ロシアのウクライナ侵攻、インフレ圧力による生活費危機、中国の経済減速は、熱帯木材製品の消費者市場に影響を与えるでしょう。他には、以下のような知見が得られました。

  • 熱帯丸太貿易は2014年をピークに減少傾向。これは主に中国の需要の低迷と、特に東南アジアからの熱帯丸太の供給力の低下を反映している。マレーシアの輸出量は10年前と比べて約10%減少。熱帯丸太の輸出は、2020年にはITTOの記録で過去最低レベルに達し、2021年と2022年にはいくらか回復の兆しが見られる。
  • 熱帯製材、合板、ベニヤの貿易は、特に米国における最終製品の消費者市場の急激な回復に対応して、より回復力が高まっている。
  • 中国は2021年の主要な熱帯丸太輸入国であったが、同国の輸入量はピーク時の2014年と比較して44%縮小。同国の輸入は2021年に、不動産投機を制限し住宅市場を落ち着かせるための規制強化やサプライチェーンの混乱による影響を受けている。2022年の上半期には回復の兆しが見られたが、下半期の経済の見通しはより悲観的である。
  • 熱帯合板の主要な貿易の流れは大きく変化し、現在は米国が主要な仕向地となっている。ベトナムの輸出は2013年の低水準から急増し、同国は現在、インドネシアに次ぐ熱帯産合板の輸出国となっている。
  • 熱帯生産国からの木材二次加工品の輸出はこの10年で急増し、そのほとんどがベトナムから米国への木製家具である。これは2021年の世界の家具貿易における最大の国家間貿易であった。2022年に米ドルの価値が他の大半の通貨に対して上昇したことにより、ユーロで取引される熱帯の輸出品の競争力が低下し、消費者市場での消費水準も低下した。
  • 熱帯貿易の見通しはかなり不透明である。COVID-19の再流行やロシア・ウクライナ紛争の悪化は、運賃、輸送、製造コストのさらなる上昇など、サプライチェーンのリスクを高める可能性がある。

メープルスデン氏は、隔年評価報告書のためにITTO加盟国からこれまでに受け取った情報には多くのギャップがあることを指摘。来年発行予定の最終報告書に掲載するために、より完全な情報の提供に向けてあらゆる努力をするよう、加盟国に促しました。

 

ITTOの世界の木材状況に関する隔年評価報告書について中間報告を行ったコンサルタントのフラン・メープルスデン氏。写真:Y. Kamijo/ITTO

【トーゴの森林景観回復における女性グループへの支援】

委員会の合同セッションの最後のイベントとして、市民社会諮問グループ(Civil Society Advisory Group:CSAG)と日本の非政府団体である創価学会は、トーゴの2つの県で最近実施されたコミュニティ主体型プロジェクトの成果物を共同で発表しました。このプロジェクトでは、100人の女性が、劣化した約20ヘクタールの森林景観の復元に参加し、12種、約27,000本の苗木を植え付けました。

「このプロジェクトは、森林再生を通じて気候変動問題の解決に貢献するだけでなく、取り残されがちな地域に住む女性たちをエンパワーしています。」と、資金提供者である創価学会平和運動局局長の相島智彦氏は述べました。「このパイロットプロジェクトは3年目を迎えました。私たちは、ITTOとともにさらなる価値を創造するために、本プロジェクトに積極的に取り組んでいきたいと考えています。」

カメルーンの実施機関REFACOFのローズ・ペラーギ・マッソ氏は、このプロジェクトが参加した女性たちにもたらした恩恵として、次のようなものを挙げています。

  • 女性たちは苗木の生産技術を習得し、自分たち自身やコミュニティのニーズのために苗木を生産できるようになった。
  • 食糧生産により、受益者世帯は食糧の需要を満たすことができ、余剰分を売却して多額の収入を得ることができるようになった。
  • 女性は生計を改善し、収入源を多様化することができた。
  • 受益者グループは、地域、県、さらには国レベルで、その存在感を示した。
  • 社会的結束が強化された。

受益者である女性たちが登場するプロジェクトのビデオも上映されました。

ITTOの市民社会諮問グループと創価学会は、トーゴの2つの県で最近実施されたコミュニティ主体型プロジェクトの成果を共同で発表した。写真:Y. Kamijo/ITTO
トーゴの行政担当者と地元の女性たち。ブリタ県パガラ-ガレ村付近の以前荒廃していた12ヘクタールの土地に最近植えたチークの木々を確認している。写真:Abalo Kpatcha
プロジェクトがもたらした恩恵について説明するREFACOFのローズ・ペラーギ・マッソ氏。写真:Y. Kamijo/ITTO

【合同セッションのその他の項目】

ITTO事務局のキアン・リー氏は、熱帯木材の市場アクセスと認証に関連する問題について、最新情報を発表しました。サラ・ストーク氏ジョージ・ホワイト氏は、森林法の施行、ガバナンス、貿易に関する独立市場監視プログラムの状況について参加者に報告しました。

【2 日目の他の理事会議題項目】

事務局は、定足数(議題項目 2)がまだ達成されていないことを報告し、この項目は会期後半に再検討されることになりました。信任委員会委員長のジャネット・シャノン氏は、議題項目9について報告を行いました。この項目も会期中に再検討される予定です。

絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES)事務局のイソベル・カマレナ氏は、CITES 附属書への樹種のリストアップに関する 7 つの提案について代表者らに通知しました。ITTO事務局のスティーブン・ジョンソン博士は、同条約の樹種プログラム(議題19)のもと、過去12カ月間に両事務局が行った共同の取り組みについて報告しました。

財務・管理委員会は、2日目に再開された際に、委員会の議題に関するさまざまな項目に取り組み、3日目に再度招集される予定です。森林再生・森林経営委員会も本日開催され、3日目に再開される予定です。

本日のプレゼンテーションの内容は、こちらからご覧いただけます(英語)。

熱帯木材の市場アクセスと認証に関する問題の最新情報を発表したITTO事務局のキアン・リー氏。写真:Y. Kamijo/ITTO
森林法施行・ガバナンス・貿易独立市場監視プログラムの状況について報告したジョージ・ホワイト氏(左)とサラ・ストーク氏。写真:Y. Kamijo/ITTO
第58回国際熱帯木材理事会2日目に、委員会の合同セッションの議長を務めたアン・タイラー氏。写真:Y. Kamijo/ITTO
第58回国際熱帯木材理事会2日目のジェシー・マホーニー議長。写真:Y. Kamijo/ITTO
第58回国際熱帯木材理事会2日目のシャーム・サックルITTO事務局長。写真:Y. Kamijo/ITTO
第58回国際熱帯木材理事会2日目。プレゼンテーションを熱心に聞く欧州委員会代表。写真:Y. Kamijo/ITTO
第58回国際熱帯木材理事会2日目。発言するミャンマー代表(画面)。写真:Y. Kamijo/ITTO
第58回国際熱帯木材理事会2日目の森林再生・森林経営委員会のセッションの様子。写真:Y. Kamijo/ITTO
第58回国際熱帯木材理事会2日目。和やかなひと時を過ごすジェシー・マホーニー議長、シャーム・サックルITTO事務局長、ITTO事務局職員ら。写真:Y. Kamijo/ITTO