COP30: 持続可能な木材、森林および生計が果たす気候変動の緩和と適応への貢献
2025年11月27日, ベレン
ITTO が COP30 で共催したサイドイベントでは、持続可能な森林経営を通じて生計向上を図る実践的で気候スマートな取組について、専門家が議論しました。© Anastasia Rodopoulou/IISD
持続可能な木材の利用は、森林地域のコミュニティに安定した収入を提供し、住民のウェルビーイングを支えるとともに、森林資源を長期にわたり健全に保つことに寄与します。また、持続可能な木材は、熱帯林およびそれらから生産される木材製品の双方において、炭素を貯留します。本サイドイベントは、国際熱帯木材機関(ITTO)と森林総合研究所(FFPRI)が共催し、持続可能な森林経営を通じて生計を改善する実践的で気候スマートな取組を紹介しました。また、これらの取組を熱帯地域全体でより広く適用するための教訓とアプローチについても議論しました。
持続可能な熱帯林経営に向けて、より力強く、共に声を上げる
ITTO のシャーム・サックル事務局長は、モデレーターとして開会の挨拶を行い、ITTO が横浜市に本部を置き、中南米、アジア太平洋、アフリカの3つの熱帯林地域すべてで活動する76か国からなる政府間機関であることを紹介しました。サックル事務局長は、ITTO が FFPRI と緊密に連携し、日本国内および国際的な森林プロジェクトの実施に同パートナーシップを活用していると述べました。また、持続可能なかたちで経営された熱帯林は、気候の安定、生物多様性、地域コミュニティのウェルビーイングに貢献すると同時に、気候スマートな循環型エコノミーも支えていると強調しました。さらに、熱帯林は世界で16億5,000万人、特に先住民族や地域コミュニティの生計を支えていると指摘し、持続的な資金供給とパートナーシップに支えられた熱帯林の持続可能な林業に向けて、より力強く、共に声を上げるよう呼びかけました。
森林総合研究所(FFPRI)生物多様性・気候変動研究センターの宮本和樹氏は、生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)のネクサス・アセスメントを引用し、自然に基づく解決策(NbS)が統合的な地球環境戦略の不可欠な要素であると述べました。続いて、ベトナムにおける森林を活用した災害リスク削減プロジェクトと、ペルーのアンデス・アマゾン地域における統合的森林管理モデルという、FFPRI の2つの取組を紹介しました。ベトナムについては、山岳地域で発生する激しい降雨と頻発する地滑りの特定から始まり、侵食防止技術と森林経営ツールの開発へと進んだ FFPRI の手法を説明しました。また、地滑りリスクの高い地域や集落周辺の優先地域を特定するため、FFPRI が地域コミュニティと協働したことを強調しました。ペルーに関しては、造林、土地利用変化、伐採、火災などの脅威に対応する統合的森林管理モデルを構築していると述べました。このモデルは、衛星画像とリスクマッピングを用いて管理シナリオを作成し、最終的なゾーニングに先立ち、地域コミュニティが選択・調整する仕組みであると結びました。
パイロット・プロジェクツCEO のスコット・フランシスコ氏は、建設慣行と世界の森林保全との繋がりについて、自身の活動を紹介しました。同氏は、都市が炭素集約型素材からの脱却を進める上で、より生物由来の建築材料を用いる必要があると述べました。また、プランテーション林(植林地)が大量の木材供給源となる一方、それだけに依存することはできないと指摘しました。さらに、適切に管理された天然林からの循環型木材および環境保全木材を都市が取り入れるよう促し、環境保全木材は生態系に経済的価値をもたらすことで長期的な森林保全を強化すると述べました。フランシスコ氏は、COP30 向けに保全木材を用いて設計されたマスティンバーパビリオンの構想(最終的には実現していない)についても共有しました。また、Cities4Forests ネットワークにおける関連取組として、都市が気候戦略の一環として持続可能な木材を活用するためのガイドである「都市のための持続可能な木材(Sustainable Wood for Cities)」ツールキットを紹介しました。.
ブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)の研究者であるルーカス・ジョゼ・マッゼイ・ジ・フレイタス氏は、ブラジル・アマゾンにおける地域コミュニティ主導の熱帯林経営に関する研究の必要性を説明しました。同氏は、現在のツールでは選択伐採と違法伐採を確実に区別できないこと、既存研究の多くが自然林を対象としている一方、多くの森林が人為的に管理されている現状を指摘しました。また、タパジョス国立森林を地域主体による経営の成功例として挙げ、低強度の介入後に植物相構成が変化することや、次期伐採サイクルを可能にするためには成熟木の十分なストックを維持する必要があることなど、研究の主要な知見をまとめました。そして、ブラジルでは研究グループが3つ、また熱帯造林学に取り組む国際ネットワークが1つしかないことを踏まえ、コミュニティ主導による熱帯林経営の研究拡充を呼びかけました。
森林認証推進プログラム(PEFC)ブラジルおよび国際熱帯木材技術協会(ATIBT)の会長であるジエアニコラウ・シモーネ・ジ・ラセルダ氏は、森林伐採地域を再生する持続可能な取組の現地事例を紹介し、それが地域コミュニティにもたらす意義を説明しました。同氏は、このプロジェクトにより森林が再生したこと、および、地域コミュニティへの敬意に基づいた包摂的なアプローチが住民に受け入れられたことを説明しました。ラセルダ氏は、プロジェクトが「市民性」の醸成に寄与し、コミュニティが最終的にその名称を「ニュー・パラダイス」へ変更したと述べました。
カメルーン・エコロジーのローズ・ペラーギ・マッソ氏は、中央・東・西アフリカ20か国で構成され、女性の土地保有権を擁護するコミュニティ森林経営のためのアフリカ女性ネットワーク(REFACOF)での自身の経験を共有しました。マッソ氏は、女性が林業および関連分野において多くの制約に直面し、役割や資金へのアクセスが限られていると強調しました。また、REFACOF が創価学会の資金提供を受けてカメルーン、ベナン、トーゴで ITTO の土地回復プロジェクトを実施していることを紹介し、2,000万本の植樹というネットワークの目標への支援を求めました。
パネル後の質疑応答では、持続可能な森林経営による森林の健全性への貢献、先住民族や地域コミュニティから学び協力する必要性、パイロットプロジェクトの立ち上げの重要性、政府・民間セクター・コミュニティ間の継続的な協力の必要性などが強調されました。
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本記事は元々 IISD Earth Negotiations Bulletin に掲載されたものです。原文(英語)はこちらからご覧いただけます。
コロンビア環境・持続可能開発大臣との会談
コロンビア・パビリオンにおいて、ITTOのサックル事務局長は、コロンビア環境・持続可能な開発大臣イレーネ・ベレス・トーレス閣下と意見交換を行いました。サックル事務局長は、2025年10月27日~31日にパナマ市で開催された第61回国際熱帯木材理事会へのコロンビアの積極的な参加、および COP30 での活発な取組を称えました。
また、コロンビアの熱帯林資源の保全と持続可能な利用への取組、並びに ITTO への全面的な支持に対する謝意を表明しました。
さらに、国内の森林産業への付加価値の創出や生計向上の機会の観点から、持続可能な木材の利用および取引の拡大がコロンビア市場にもたらす利点を強調しました。
加えて、コロンビアが中南米地域の調整役として国際熱帯木材協定(ITTA)2006 の改定交渉に関与していること、ブエナベントゥーラ自治体で実施中の ITTO プロジェクトの進捗、2026年11月に開催予定の第62回国際熱帯木材理事会に向けた準備作業についても議論が行われました。