COP30:気候危機対策における森林の重要性を前面に

2025年11月20日, ベレン

登壇者らは、森林は気候危機への対処に不可欠であるという共通のメッセージを示しました。しかし、森林の潜在能力が発揮されるためには、包摂的なガバナンス、科学的知見、持続可能な経営、そして十分な資金供給が必要です。© Gen Totani/FFPRI

国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第30回締約国会議(30th Conference of the Parties: COP30)の期間中の2025年11月14日に、ジャパン・パビリオンで開催された「気候危機の時代における森林の役割」と題するセミナーでは、森林が気候危機の緩和と適応の両面で果たす重要性が中心的テーマとなりました。同イベントは、森林総合研究所(FFPRI)が主催し、林野庁および国際熱帯木材機関(ITTO)が共催したもので、世界に向けてライブ配信も行われました。

ITTOのシャーム・サックル事務局長は、林野庁の谷村栄二次長とともに開会挨拶を行いました。サックル事務局長は、森林火災、干ばつ、洪水、高潮など、気候変動の影響が加速していることを指摘し、森林の潜在力を気候変動対策およびレジリエンスの柱として最大限に活用するため、喫緊かつ共同のアクションが必要であると訴えました。

シャーム・サックルITTO事務局長は、森林が気候変動の緩和と適応に果たす役割について説明しました。© Gen Totani/FFPRI

「森林が緩和と適応の両面において重要な役割を果たすことは科学的に証明されています。」とサックル氏は述べました。「森林は大気中の炭素を吸収するとともに、災害リスクを軽減する自然の緩衝材として機能しており、強靱な社会を構築する基盤です。森林の保全と持続可能な利用への投資は、長期的な社会・経済・環境面の利益をもたらす気候スマートな投資です。」

地域の知識、女性のリーダーシップ、科学に基づくマネジメントへの着目

セミナーには、ブラジル、アフリカ、日本から専門家が参加し、森林が気候変動の緩和と適応に貢献する多様な視点が紹介されました。

ルーカス・ジョゼ・マゼイ氏は、コミュニティ主導の森林経営が、持続可能な木材生産だけでなく、社会的公正、領域ガバナンス、そして伝統知の再活性化にも貢献すると強調しました。© Gen Totani/FFPRI

東部アマゾンブラジル農業研究公社(Embrapa)のルーカス・ジョゼ・マッセイ氏は、ITTOと日本政府が支援する長年の協働プロジェクト「ボン・マネージョ」を紹介しました。同プロジェクトは、ブラジル・アマゾンにおけるコミュニティ主体の森林経営の強化を目的としています。同氏は、緑の保護区(Reserva Verde para Sempre)で得られた知見を踏まえながら、コミュニティ主体の森林経営が持続可能な木材生産にとどまらず、社会的公正、領域ガバナンス、伝統的知識の再興に寄与すると強調しました。また、女性のエンパワーメントが効果的かつ包摂的な森林ガバナンスに不可欠であると指摘しました。

長年の研究から得られた科学的知見によれば、持続可能な熱帯林経営には、樹種の動態、伐採周期、残存林分の状況について慎重な検討が必要です。「熱帯林の木材生産は永続的に実施することができます」とマッセイ氏は強調しつつ、「しかし、面積による制約が本質的に存在するため、市場原理を超えたより広範な社会的ビジョンの中に組み込まれる必要があります。」と述べました。

セシル・ビビアン・ンジェベト氏は、ベナン、カメルーン、トーゴで600ヘクタール以上の劣化した生態系を女性たちが回復してきたことを強調しました。© Gen Totani/FFPRI

コミュニティ森林経営のためのアフリカ女性ネットワーク(REFACOF)を代表し、セシル・ビビアン・ンジェベト氏は、カメルーンにおける劣化した森林やマングローブ林の回復におけるアフリカの女性のリーダーシップを強調し、ITTOと創価学会が支援するトーゴベナンでの取組を紹介しました。女性主導グループはこれまでに、上記3か国だけでも、劣化した生態系を600ヘクタール以上回復させるとともに、コートジボワール、コンゴ民主共和国、ガーナ、赤道ギニアでは2,000ヘクタール以上を回復させています。

しかしながら、これらの成果にもかかわらず、女性主導組織に届く世界の気候資金は0.04%未満であると、ンジェベト博士は強調しました。「女性は能力も知識も解決策も持っています。」「森林が気候危機への対応において中心的役割を果たすためには、十分な資金供給を動員し、女性および若者の土地・権利を確保する必要があります。」と同氏は述べました。

岡林正人氏は、中高層建築物における木材利用の拡大が、都市部での長期的な炭素貯留を増加させるための日本の重要な戦略であると説明しました。© Gen Totani/FFPRI

日本の森林分野のイノベーションによる脱炭素化の推進

林野庁の岡林正人氏は、持続可能な森林経営と国産材利用の拡大を通じて気候変動対策を前進させるための日本の取組を紹介しました。日本では国土の66%が森林に覆われ、森林蓄積量は35億立方メートルに達していることから、健全な森林を維持し、炭素貯留を最大化するため、伐採・木材利用・再造林の循環システムを推進しています。

日本の政策は、公共・民間建築物での木材利用の促進、林業用の自動化された機械やレーザーによる資源調査といった技術革新の支援、さらに耐火性材料やクロス・ラミネイテッド・ティンバー(CLT、直交集成板)などの先進的木質製品の普及を促進しています。中高層建築物における木材利用の拡大は、都市部の長期的な炭素貯留を増加させるための重要な戦略です。

平田泰雅氏は、山間地域および沿岸地域において災害リスクを軽減する上で森林が不可欠であると説明しました。© Gen Totani/FFPRI

気候変動適応のための自然インフラとしての森林

最後に、FFPRIの平田泰雅氏が、山間地域および沿岸地域において災害リスクを低減する上で森林が果たす不可欠な役割について説明しました。気候変動によって異常気象が激化する中、森林被覆、特に根系は、地表の崩壊を防ぎ、侵食を抑制し、洪水を緩和する上で重要な役割を果たしています。

沿岸域では、マングローブ林が高潮や沿岸侵食に対する強力な防御となります。しかし、平田氏は、伐採禁止による過密化、植栽後の管理不足、堆積環境の変化など、マングローブ再生事業が直面する課題を指摘しました。このため、マングローブ保全の強化と、適切な地域を対象とした森林再生は、脆弱な沿岸地域コミュニティを保護する上での緊急の優先課題となっています。

森林総合研究所(FFPRI)のセミナーでは、森林が気候危機の緩和と適応の両面で果たす

協力と投資への呼びかけ    

セミナーは、森林が気候危機への対処に不可欠であるという共通のメッセージで締めくくられました。しかし、森林の潜在力が発揮されるためには、包摂的なガバナンス、科学的知見、持続可能な経営、そして十分な資金供給が不可欠です。

「ITTOは、熱帯林がその潜在力を最大限に発揮できるよう、必要な資金やパートナーシップを動員するため、加盟国および関係パートナーとの協力に引き続き全力で取り組んでいきます。」とサックル事務局長は述べました。「私たちは共に、強靱で持続可能かつ包摂的な未来を築くことができます。」