APFW2025:アジア太平洋地域における食料安全保障と火災耐性の向上

2025年11月19日, チェンマイ

脅威を増す山火事シーズンと深刻化する食料不安に直面するアジア太平洋地域。コミュニティ中心の協力体制がレジリエンスへの道筋を提供します。© Paula Sarigumba/ITTO

国際熱帯木材機関(ITTO)、地域コミュニティ林業研修センター(RECOFTC – The Center for People and Forests)、アジア太平洋持続可能な森林経営・リハビリテーションネットワーク( Asia-Pacific Network for Sustainable Forest Management and Rehabilitation: APFNet)が共催したアジア太平洋林業週間2025(Asia-Pacific Forestry Week 2025)サイドイベント「アジア太平洋地域における変革のはじまり:地域コミュニティ主導の火災管理協働による食料安全保障の実現」では、協働と革新の精神が示されました。

このセッションには、地域の専門家、政策立案者、コミュニティ林業の実務者が集まり、コミュニティ主体の火災管理(CBFiM)に関するパートナーシップが、アジア太平洋地域全体の食料安全保障を高め、レジリエンスを強化し、持続可能な森林景観を育む方法について検討しました。

デイヴィッド・ガンズ氏は火災管理を各国の気候・生物多様性関連の国家コミットメントに統合する必要性が高まっていると述べました。 © Ratchanon Insuphan/ITTO

森林火災と食料安全保障:共有された課題

RECOFTC事務局長デイヴィッド・ガンズ氏は開会の挨拶で、長年の軽視を経て、山火事が地域住民に与える影響に対する注目が高まっていることを強調しました。「25年間、火災管理に携わってきましたが、今日ほど火災の人間への影響に対して公共および政策的関心が高まっているのを見たことがありません。」と同氏は述べました。ガンズ博士は、農業セクターと森林セクターは密接に関連し、火災はこれらの境界を越えて発生し、食料安全保障、生物多様性、気候レジリエンスに影響を及ぼすと指摘しました。

また、火災管理を各国の気候・生物多様性関連の国家コミットメントに統合する必要性が高まっていることにも触れ、「国別削減目標(NDC)に責任持って取り組み、効果的に火災管理を行っている国が、排出削減分を目標に算入できるようにしたい。」と述べました。

協働の実践:ファイヤーサイド・トーク

RECOFTCのジャニタ・グルン氏をモデレーターとした「ファイヤーサイド・チャット」セッションでは、革新的なパートナーシップや実践的ツールについて専門家が紹介しました。

スダ・カドカ氏は、Forest and Farm Facility(FFF)の取組が、増大する火災リスクに対応するネパールのコミュニティ林業グループを支援する様子を紹介しました。 © Ratchanon Insuphan/ITTO

RECOFTCネパールのカントリープログラムディレクター、スダ・カドカ氏は、フォレスト・アンド・ファーム・ファシリティー(Forest and Farm Facility: FFF) の取組がネパールのコミュニティ林業グループを支援し、拡大する火災リスクに対応していることを紹介しました。同氏は、移住パターンの変化、連邦制に伴う政策の混乱、管理されていない森林バイオマスなどが昨年5,000件以上の火災発生につながったと述べました。FAOおよび国内パートナーとの協力により、RECOFTCは州レベルの火災リスクマップの作成、政策レビュー、コミュニティ主体の火災管理計画のパイロット事業実施などを進め、地域ガバナンスの強化と新たな森林火災管理資金の創出に取り組んでいます。

フアン・ケビャオ氏は政府、コミュニティ、研究機関間の協力、知識共有、政策対話を強化するための「東南アジア火災管理メカニズム(SEAFiMM)」を紹介しました。 © Ratchanon Insuphan/ITTO

APFNet企画部長のフアン・ケビャオ氏は、政府、コミュニティ、研究機関間の協力、知識共有、政策対話を強化することを目的にRECOFTCと共同で立ち上げた地域プラットフォーム「東南アジア火災管理メカニズム(Southeast Asia Fire Management Mechanism: SEAFiMM)」を紹介しました。SEAFiMMは2024年に設立され、組織間の縦割りを打破し、地域全体での協調行動を促進することを目的としています。「このメカニズムは新しい機関ではありません」とフアン氏は説明しました。「既存の取り組みをつなぎ、強化するためのプラットフォームなのです。」

ITTO森林経営部長のジェニファー・コンヘ氏は、2026年に公開予定の「熱帯統合火災管理(IFM)ツールキット」を紹介しました。© Ratchanon Insuphan/ITTO

ITTOを代表し、森林経営部長のジェニファー・コンヘ氏は、「熱帯統合火災管理(IFM)ツールキット」を紹介しました。このツールキットは、熱帯地域の火災管理に関する約400の厳選された資料をまとめたインターネット上の国際的な情報集約サイトで、「レビュー、リスク軽減、準備、対応、回復」の5Rを軸に、ベストプラクティス、トレーニングマニュアル、ガイドライン、コミュニケーションツールを揃えています。コンヘ氏は「私たちの目標は、熱帯地域における火災に取り組む実務者と政策立案者のワンストップサイトをつくることです。」と述べました。同サイトは、2026年に公開予定です。

新たな取組:地域の行動、域内の学び、世界的な連携

セッションでは、RECOFTCが国際開発研究センター(Development Research Centre: IDRC)を通じてカナダ政府の支援を受けて実施する新規研究プロジェクト「FLARE」の発表も行われました。この研究は、タイ、インドネシア、フィリピンの「モデルフォレスト」を対象に、火災後の回復、アグロフォレストリーのイノベーション、自然に基づく食料安全保障の解決策を探るものです。

さらにRECOFTCは、カセサート大学と共同で作成したコミュニティ主体の火災予防と計画的火入れに関するタイ語のマニュアルを発表し、次の火災シーズンに向けて地域の能力強化を図りました。

参加した専門家らは、効果的な火災管理には技術的な解決策だけでなく、地域の慣行や国家政策枠組みに沿った包摂的ガバナンスと管理が不可欠であることを強調しました。  © Ratchanon Insuphan/ITTO

コミュニティ、政策、世界目標の連結

議論では、効果的な火災管理には技術的な解決策だけでなく、包摂的ガバナンスと管理が不可欠であることが強調されました。パネリストは、CBFiMにおけるジェンダー平等と社会的包摂の重要性、地域の慣行を国家政策枠組みと整合させる必要性、そして伝統的な火災の知識の価値を指摘しました。

コンヘ氏は、ITTOがIFMを推進するための森林に関する協調パートナーシップ(Joint Initiative of the Collaborative Partnership on Forests: CPF))の共同イニシアチブを主導し、FAO、世界火災監視センター(GFMC)、RECOFTCと連携して、重複を減らし、この問題に関するそれぞれの強みを活用することを目指していると述べ「限られた資源の中で、効率性と協働が鍵となります。」と語りました。

閉会の辞で、スイス開発協力庁(SDC)のフィリップ・ブリュネ氏は、この地域における火災管理をめぐる機運の高まりを称賛しました。ブリュネ氏は、新たなメカニズムとガイドラインが、地域主導の解決策を拡大し、林業から災害管理、気候変動対策に至るまで、様々なセクターを繋ぐ可能性を秘めていることを強調しました。「私たちは今、必要なツール、知識、そして強力なパートナーシップを手に入れています。」と同氏は述べました。「課題は、この意欲を、森林、コミュニティ、そして食料システムを守るための協調的な行動へと転換することです。」

協働的アクションへの呼びかけ

アジア太平洋地域が激化する山火事と高まる食料不安に直面する中、このサイドイベントは、コミュニティを中心とした連携がレジリエンスを高める道を示しました。ITTOとそのパートナーは、パートナーシップの強化、知識の共有、そして森林および火災管理の最前線に立つコミュニティの支援に引き続き取り組んでいきます。