APFW2025:アジア太平洋地域における生計向上のための持続可能な利用と生物多様性保全

2025年11月17日, チェンマイ

APFW2025サイドイベントの登壇者は、森林に基づくバイオエコノミーに寄与する健全で生産的な生態系を確保する上で、持続可能な森林経営が重要であると強調しました。© Saichon Mutarapat

国際熱帯木材機関(ITTO)のジェニファー・コンへ森林経営部長は、ITTOが共催したアジア太平洋林業週間2025(APFW2025)サイドイベントにおいて、持続可能なかたちで管理された生産林ランドスケープから責任ある調達による木材および非木材林産物を推進することが、脱炭素社会、生物多様性保全、小規模林業従事者コミュニティの生計向上に寄与すると述べました。

本イベントでは、アジア太平洋地域全体の専門家が、生産林ランドスケープにおける生物多様性の持続可能な利用および保全に関する経験や取組を共有しました。登壇者は、森林に基づくバイオエコノミーに貢献する健全で生産的な生態系を確保する上での、持続可能な森林経営(Sustainable Forest Management: SFM)の重要性を強調しました。

ITTOのジェニファー・コンへ森林経営部長は、ITTOが共催したアジア太平洋森林週間2025(APFW2025)のサイドイベントにおいて、持続可能なかたちで経営された生産林ランドスケープから責任ある調達による木材および非木材林産物を推進することが、脱炭素社会、生物多様性保全、小規模林業従事者コミュニティの生計向上に寄与すると述べました。© Saichon Mutarapat

コンへ氏は、ITTOが長年にわたり熱帯生産林における生物多様性の保全と持続可能な利用の重要性を認識してきたと説明しました。ITTOは1993年に熱帯生産林における生物多様性保全に関するガイドラインを発行しました。同書は2009年にIUCNとの協力により、保全と持続可能性を明確に結びつけるかたちに改訂されています。両機関は現在、森林・生物多様性ランドスケープの技術的・政策的変化を反映させた改訂版ガイドラインの策定作業を進めており、新版の刊行が2026年後半に予定されています。

これらのガイドラインは、アジア太平洋地域におけるITTOプログラムの指針となっており、イベントではテトラ・ヤヌアリアディITTOプロジェクトマネージャーが、合法で持続可能なサプライチェーン(Legal and Sustainable Supply Chains: LSSC)に関する多様な取組を紹介しました。.

ヤヌアリアディITTOプロジェクトマネージャーは、合法かつ持続可能なサプライチェーンの認知向上および採用を促進し、木材および木材製品の持続可能な国内利用を強化し、森林ガバナンスを向上させるためのITTOの取組を説明しました。© Saichon Mutarapat

合法かつ持続可能なサプライチェーンを通じた生物多様性の保全と持続可能な利用の促進

インド、インドネシアマレーシアタイベトナムで実施されたプロジェクトは、LSSC に関する認知と採用を高めつつ、木材および木材製品の持続可能な国内利用を強化しました。これらの活動は、国産材消費の拡大、企業(特に中小企業:SMEs)の合法性証明能力の向上、伐採・加工における透明性とトレーサビリティの促進を通じて、SFM を推進することを目的として設計されました。

ITTOが運営するグローバル・リーガル&サステナブル・フォーラム(Clobal Legal and Sustainable Forum: GLSTF)および世界木材指標(Global Timber Index: GTI)は、LSSC を推進するための重要なプラットフォームとなっています。GLSTF は、産業界との協力、トレーサビリティ強化、認証制度、法制度遵守の促進を通じてLSSCを前進させています。月ごとに発表される GTI は、9か国の木材セクターを追跡し、木材および非木材林産物の貿易に関する透明性を高めています。

ヤヌアリアディ氏はさらに、森林ガバナンスの強化がアジア太平洋地域における生物多様性の持続可能な利用と保全を促進するためのITTOの重要な柱であると説明しました。インドネシアおよびタイで実施された最近のITTOプロジェクトは、ベストプラクティスの導入、能力構築、革新的なモニタリング手法へのアクセス提供を通じて、グッドガバナンスを促進しました。

また同氏は、建設における国内木材の利用促進はITTOと政策立案者や業界リーダーとの連携の重要な側面であると述べました。持続可能な木材を用いた住宅建設は、建設セクターの排出削減に寄与し、各国の国別削減目標(National Determined Contributions: NDC)の達成にも貢献します。

庄野研一氏はアジア太平洋地域の森林および生物多様性が人間の活動と密接に結びついており、生計、回復力、食糧安全保障、文化的価値を支える重要な生態系サービスを提供していることを説明しました。© Saichon Mutarapat

アジア太平洋地域の森林と生物多様性

国際連合食糧農業機関(UN Food and Agriculture Organization: FAO)フォレストリー・オフィサーの庄野研一氏は、最近発表された「世界森林資源評価2025(Global Forest Resources Assessment 2025)」のデータに基づき、アジア太平洋地域の森林と生物多様性の概況を紹介しました。

庄野氏は、同地域の森林および生物多様性が人間の活動と密接に結びついており、生計、レジリエンス、食糧安全保障、文化的価値を支える重要な生態系サービスを提供していることを説明しました。アジアでは過去35年間で森林面積が増加し、森林再生および保全の取組が強化されている一方、森林減少、一次林の少なさ、政策認知の不均衡といった課題が依然として存在しています。

また、アジア太平洋地域は保護地域の指定数において世界をリードしていますが、森林景観の大部分は生産および多目的利用のために管理されているため、生物多様性の保全と持続可能な利用を確保するために SFM を推進することが同地域において一層重要であると述べました。

コンヘ氏はこれに関連し、「SFM は、木材生産能力と、生態系の多様な機能とサービスの長期的持続性を確保するための重要な環境要因への適切な配慮との間の、継続的な調整行為です。」と述べました。

ヨンユット・トライスラット氏は、持続可能なかたちで経営された生産林ランドスケープが多国間および国内の政策目標にどのように貢献するかを紹介しました。© Saichon Mutarapat

生物多様性および経済目標を支える持続可能な森林経営

カセサート大学のヨンユット・トライスラット氏は、持続可能なかたちで経営された生産林ランドスケープが多国間および国内の政策目標にどのように貢献するかを紹介しました。

ヨンユット博士は、昆明・モントリオール生物多様性枠組(Kunming-Montreal Global Biodiversity Framework: KMGBF)や持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)などの世界的な生物多様性目標の達成には森林が不可欠であると述べました。またSFMを、気候変動、生物多様性損失、土地劣化に対応する自然に基づく解決策(NbS)の中核と位置づけました。

同氏は、地域の複数の事例を紹介し、アグロフォレストリー、ゲノム適応などの革新的技術、空間モニタリングが、生物多様性の保護、地域コミュニティと先住民族の生計の支援、気候変動との闘いにおける費用対効果の高い SFM 解決策の例であると述べました。

また、ヨンユット博士は、SFMをいかにして国内の生物多様性と経済目標の達成に統合できるかについて述べました。また、カンボジアやパナマの植林地が野生生物回廊を形成し、地域の雇用機会を創出していることについて説明しました。タイのEU森林減少防止に関する規則(EUDR)への対応が木材製品輸出における競争力向上に寄与しているという事例も取り上げられました。

田端朗子氏は、特に人工林を対象とした、生産ランドスケープにおける森林生物多様性の主流化に向けた日本の取組について説明しました。© Saichon Mutarapat

アジア太平洋地域のナショナルモデル

アジア太平洋地域の2名の登壇者が、日本およびタイにおける森林経営およびバイオエコノミーへの取組を紹介しました。

日本の林野庁の田端朗子課長補佐は、特に人工林を対象とした、生産ランドスケープにおける森林生物多様性の主流化に向けた日本の取組について説明しました。

田端氏は、林野庁が生物多様性を強化する森林経営の推奨アプローチに関するガイドラインを策定したことを紹介しました。

それらのガイドラインは、民間企業および森林所有者に対し、生態系サービスの持続性に貢献しつつ収益性を高める機会(生息地保全、土壌保全、レクリエーション等)への理解促進を目的としています。同推奨アプローチには、特定区域における森林配置の最適化、人工林の標準要件、地域条件に適した自主的措置、森林モニタリングの枠組などが含まれています。 

サポン・ブーンサームスク 氏は、同国の経済成長、生計向上、ウェルビーイングの改善に寄与するバイオ・サーキュラー・グリーン(BCG)経済モデルへの移行の様子について述べました。© Saichon Mutarapat

タイ王立森林局の元林業専門家であるサポン・ブーンサームスク 氏は、同国の経済成長、生計向上、ウェルビーイングの改善に寄与するバイオ・サーキュラー・グリーン(BCG)経済モデルへの移行の様子について述べました。BCGモデルは、伝統産業の付加価値向上、SDGsとの整合性、廃棄物・汚染問題への対応など、重層的な恩恵をもたらします。

イノベーションと技術導入は、このモデルの重要な側面となっており。農業からエネルギー産業に至るまで幅広い分野に関与します。サポン氏は、廃棄物イノベーション、BCG観光、ヘンプ農業などの成功事例を挙げ、BCGモデルがタイ経済を持続可能な成長と長期的なレジリエンスへと導いていると述べました。

アジア太平洋地域における持続可能な森林経営の推進 

登壇者一同は、気候変動、生物多様性損失、森林減少、土地劣化といった脅威に直面するアジア太平洋地域では、効果的かつ実践的な森林経営が重要であると強調しました。

ITTOは今後も、持続可能な熱帯森林経営を、脱炭素化、森林景観回復、生物多様性保全、森林依存型コミュニティの生計支援、そして昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)およびSDGs達成のための重要要素として推進していきます。

サイドイベントの録画は、こちらからご覧いただけます: