ITTOウェビナー、クローン技術による持続可能なチーク生産の可能性に焦点

2025年7月11日, 横浜

タイ北部にあるチーク改良センター研究所での組織培養技術の実演。写真: Alfredo Ruzol

組織培養技術で生産されたチークは、世界中の商業用プランテーションで既に高い収率と大きな利益をもたらしています。しかし、小規模農業従事者がこのような改良された造林資材を手にするのは、依然として困難であると言えます。

上記は、ITTOの旗艦プロジェクト(Promoting quality timber production in smallholders and community-based teak and other valuable species plantations in the tropics)の一環として2025年6月17日に行われたウェビナーの結論の一つです。同プロジェクトは、小規模農業従事者のチーク生産を促進し、世界で最も価値のある熱帯木材種の一つであるチークの持続可能な栽培と貿易を強化することを目的としています。

「組織培養によるチーク苗木のイノベーション」と題した同ウェビナーでは、アジア太平洋地域や西アフリカ諸国から参加者が集まり、商業目的のユーザーと小規模ユーザーの双方を対象にしたクローン苗木の開発と可能性に関する発表が行われました。

ウェビナーではまず、マレーシア・サバにある、YSGバイオスケープ・スディリアン有限会社のマネージング・ディレクターであるドーリーン・ゴー氏が、世界25カ国以上にクローン技術によるチーク苗木を輸出している同社の取組について説明しました。

ゴー博士はまず、種からの伝統的なチークの増殖における制約について説明しました。これには、高品質な種の供給が限られていること、発芽率の予測不能性、および、成長率・品質・ストレス耐性などの主要な特性のばらつきの大きさが含まれます。

クローン・コレクションでは、選択された標本(プラスツリー)を収集し、一貫した環境条件下で試験的に栽培します。写真: Alfredo Ruzol

一方、実験室での栄養繁殖(クローン増殖)では、特定の優れた特性を持つ母樹1本から採取した材料を使用し、同一の植物を無限に生産できます。

ゴー博士は、サバ財団の傘下にある自社の研究開発について、フランス農業開発研究国際協力センター(CIRAD)と協力し、ソロモン諸島で発見された8本の標本木からチークの造林素材を開発したと述べました。

同社は、20年以上の研究開発を経て、DNAと木材分析を用いた選別プロセスをさらに精緻化し、現在、2つの原産地プロットで育成された50種類以上の遺伝子型のクローンを提供しています。苗床での苗の生存率は90%を超えています。

ゴー博士は、YSGバイオスケープ社の造林資材は現在、世界中のさまざまなプロジェクトで活用されていると述べました。これには、コートジボアールでのゴムとの混植システム、インドネシアでのアロールートとの混植システム、フランス領ギアナでのコーヒーとバナナとの混植システム、マレーシアでの油ヤシとのボーダープランティング、エクアドルとフィリピンでの農畜複合システムが含まれます。

クローン苗木はブラジルとカンボジアのチーク・プランテーションの設立にも使用されています。ゴー博士によると、クローン由来の木は、種子由来の木よりも高い収量を記録しています。

クローンチークは成長速度が速いため、ブラジルのプランテーションでは20~25年ではなく15~18年の育成期間と見られており、投資回収までの期間が大幅に短くなっています。一方、カンボジアでは、生産者らは育成期間は6~7年とみなしており、木材の品質向上ために革新的な木材保存技術や他の技術を活用しています。

ITTOの貿易・産業部長がウェブセミナーで指摘した点に対し、ゴー博士は、プランテーション産のチークは自然林産の成長が遅いチークと比べて「品質の低下を伴う」可能性があると同意しました。

しかし、自然林からのチークの供給が着実に減少している中、「私たちは速く成長するクローン植林のチークに頼るしかない。」と彼女は述べました。また「結局のところ、供給と需要、市場、消費者が品質が低い木材を受け入れるかどうかについて議論しなければならない」と加えました。

タイの果樹園サイトで接木を植える様子。写真: Alfredo Ruzol

組織培養技術

専門家の立場から発表を行う2人目の演者は、タイのチークとゴムの木苗の民間供給業者であるタイ・オーキッド・ラボズ株式会社(TOL)のマネージングディレクターであるパイブーリヤ・ギャビンラートバタナ氏でした。同社の3,000平方メートルの施設では、果物や野菜、観賞植物、ハーブ、樹木を含む植物を年間2,000万本生産することが可能です。

ギャビンラートバタナ博士は、希少種の保存や造林素材の改良・大量生産に活用できる点を指摘しつつ、組織培養技術の詳細を説明しました。

目的に応じて複数の組織培養技術を適用することができます。例えば、芽培養、胚培養、胚発生、器官発生などです。商業的な実現可能性のため、いずれの技術も拡張性、信頼性、一貫性、収益性を備え、現場で良好な結果を出す必要があります。

改良チークの開発のため、TOLはタイの王立森林局と協力し、母樹の選定を行いました。その中には40メートルを超える高さの個体も含まれていますが、検査された木のうち約1,000本に1本しか採用されませんでした。

TOLのクローン素材は、タイをはじめ東南アジアの他の地域、オーストラリア、グアテマラ、ジャマイカ、モザンビークなどで利用されています。タイにあるTOLの1,000ヘクタールのチークプランテーションは現在、約19年目です。

「形態、均一性、成長の面で、結果は非常に良好です。」とギャビンラートバタナ博士は語りました。

さらなる改善を図るため、同社は害虫への抵抗力などの特性を持つ樹木の選別を継続し、タイの国立のバイオテクノロジー研究所と協力して望ましい特性の遺伝子マーカーを特定する研究を進めています。また、ハイブリッド品種の実験も実施しています。

配布用に準備されたチークの苗木。写真: Alfredo Ruzol

コストを補うために

両演者は、自社がチーク以外の多様な樹木や植物種への事業多角化を進めていると示しました。

組織培養ラボの運営コストを賄うため、ゴー博士は、アカシア・マンギウムやユーカリ・ペリタなどの樹木のクローン、バナナやバニラなどの換金作物、オーキッドを含む観賞植物の供給を検討していると述べました。

一方、TOLは大学研究者と協力し、チークの葉から作られた染料や脱毛防止シャンプーを含む非木材製品の開発を進めています。

収穫されたチークの丸太の検査。写真: Alfredo Ruzol

利益の拡大

「高品質のチーク組織培養苗は、高い木材収量、高品質の木材、したがって高い価格と価値、そして非常に高い収益をもたらすことができます。」とギャビンラートバタナ博士は述べました。

しかし、両演者は、商業的なプランテーション事業者や持続可能なチーク産業全体がラボで複製されたチークから利益を得られる一方で、小規模農業従事者向けの安価な解決策はまだ見つかっていないと結論付けました。

ゴー博士は、小規模農家がより伝統的な手法を用いて、手頃な価格で改良されたチークの造林素材を栽培し、自ら挿し木を行うことができるよう、彼女の会社から地元の苗床に高品質の親木を供給できると述べています。

もう1つの解決策は、小規模農業従事者が協同組合を結成し、生産者にとって採算が合うだけの十分な数のクローン植物を注文することだと、ギャビンラートバタナ博士は述べました。

演者らはまた、限られた土地からより迅速な収益を必要とする小規模農業従事者にとって、チークの育成期間が依然として長すぎるという懸念についても言及しました。

欧州連合(EU)などの主要消費市場では、数十年にわたって栽培された高品質のチーク材への需要が引き続き存在する一方、家具やその他の小規模木工産業など、10~14 年程度の木材を求める地域市場や地方市場が出現する可能性があります。

1965年にタイ・パヤオ県に設立された同国初のチークのクローン種子園。写真: Alfredo Ruzol

Smallholders also have the option of integrating teak into agroforestry systems with cash crops and may, like their commercial counterparts, qualify for payments from the generation of carbon credits, Dr Gavinlertvatana said.

The webinar series is part of the second phase of the ITTO project “Promoting Quality Timber Production in Smallholder and Community-based Teak and Other Valuable Species Plantations in the Tropics.” The project, which is supported by the German government, has been under implementation since 2023 in Cambodia, India, Indonesia, Thailand, Togo and Viet Nam.

“Clonal propagation through tissue culture presents a promising opportunity to accelerate sustainable teak production—especially as we face mounting pressure on natural forest resources,” said ITTO Executive Director Sheam Satkuru. “But the true potential of this innovation lies in ensuring that smallholders can access and benefit from it. ITTO is committed to bridging this gap through knowledge sharing, partnerships, and targeted support.”

Organized in collaboration with the TEAKNET information network, the webinars provide a collaborative learning platform for smallholders, forestry authorities and academic partners to advance knowledge and innovation across the supply chains for teak and other high-value timber species.

小規模農業従事者は、換金作物とチークを組み合わせたアグロフォレストリーシステムにチークを統合するという選択肢もあり、商業農家と同様に、カーボンクレジットの生成による支払いを受ける資格が得られるかもしれないと、ギャビンラートバタナ博士は述べました。

このウェビナーシリーズは、ITTOプロジェクト「熱帯地域の小規模農業従事者やコミュニティによるチークや他の貴重な樹種プランテーションにおける高品質な木材の生産の促進」(Promoting Quality Timber Production in Smallholder and Community-based Teak and Other Valuable Species Plantations in the Tropics)の第2フェーズの一部です。ドイツ政府の支援を受ける同プロジェクトは、2023年からカンボジア、インド、インドネシア、タイ、トーゴ、ベトナムで実施されています。

「組織培養によるクローン繁殖は、特に自然林資源への圧力が高まる中、持続可能なチーク生産を加速する有望なチャンスです。」とシャーム・サックルITTO事務局長は述べました。「しかし、このイノベーションの真の潜在能力は、小規模農業従事者がこれを利用して恩恵を受けられる(動画)よう、保証することにあります。ITTOは、知識共有、パートナーシップ、ターゲットを絞った支援を通じて、このギャップを埋めることにコミットしています。」

国際チーク情報ネットワーク(TEAKNET)との協力で組織されたこれらのウェビナーは、小規模農業従事者、林業当局、学術パートナーが、チークや他の高価値樹種のサプライチェーンにおける知識とイノベーションを推進するための共同学習プラットフォームを提供します。

上記以外には、害虫・病気の防除、火災管理、認証、合法性、カーボンファイナンスや他のインセンティブの役割が議論のテーマとなりました。​


 


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