地球温暖化の抑制には熱帯林の復元が不可欠

2018年12月19日, カトヴィツェ(ポーランド)

UNFCCC COP24におけるITTO-FFPRIサイドイベント「劣化林の再生:炭素、生物多様性、コミュニティーレジリエンス」 写真提供: FFPRI

ITTOと日本の森林総合研究所(FFPRI)は、国連気候変動枠組条約第24回締約国会議(UNFCCC COP24)のサイドイベントを開催しました。そこで、熱帯林の劣化は森林破壊よりも大きな炭素損失を引き起こすことから、サプライチェーンに関連した景観アプローチによる森林回復への投資が地球温暖化を1.5℃以内に抑制するために不可欠だとの見解を示しました。
 
2018年12月14日、ポーランドのカトヴィツェで開催された国連気候変動枠組条約第24回締約国会議で、サイドイベント「劣化林の再生:炭素、生物多様性、コミュニティーレジリエンス」が開催されました。このサイドイベントでは、森林景観の修復、持続可能なサプライチェーン、コミュニティーレジリエンス(回復力)、生物多様性の保全と気候変動緩和との関連について検討しました。

ITTO事務局長のディタレ博士は、熱帯林が森林劣化による正味の炭素排出源であり、その炭素密度損失は推定69%を占めると言われているとのScience誌に発表された最近の調査結果を提示しました。通常のビジネスシナリオでは、継続的な世界の人口増加は森林破壊と森林劣化を招き、環境に優しくない物質がさらに使われることになり、結果としてパリ条約で定めた気候変動目標を達成することなどほとんど不可能になります。

一方で、木材やその他の森林製品の持続可能なサプライチェーンと関連づけられる森林景観修復に対する大規模投資を実施することで、実用的で比較的安価な解決策を提供できたと述べました。

「このような投資は、地方の雇用、貧困削減、地域社会のレジリエンス(回復力)の向上、木材の安全保障、そして残存する原生林や生物多様性の保全を含めた持続可能な開発目標に複合的な効果をもたらすでしょう」。

「最も重要なこととして、森林投資を行うことで森林の修復、植林、再造林、持続可能な森林経営、持続可能な木材を使用したコンクリートや鉄鋼などのエネルギー集約材による代替品などによる炭素の大量貯蔵が可能になるでしょう」。

ディタレ博士によれば、こうした努力によって年間8ギガトンの二酸化炭素排出量を削減することができ、それは2018年の気候変動緩和の炭素排出量と目標値とのギャップ15%に相当するということです。

「このような環境を実現するための鍵は、サプライチェーン全体の視点から森林景観の修復を目指すことなのです」と述べました。

日本の林野庁長官である本郷浩二氏は次のように述べました。劣化林の復元によって人々の暮らしや炭素貯蔵、生物多様性保全、そして生態系と人間のレジリエンス(回復力)の向上など多くの利益と目標が共存できるようになります。そして 本郷氏は国連森林戦略計画2017-2030に基づき、熱帯林の炭素貯蔵を維持、強化することの重要性について強調し、そのことがどのように持続可能な開発目標の達成に貢献できるかについて述べました。

日本の森林総合研究所森林植生研究領域長の佐藤保氏は、火災が森林の質や種構成に及ぼす影響など、森林劣化を評価する革新的な科学的方法について発表しました。 佐藤氏はまた、様々な空間スケールでの森林劣化を評価するための衛星搭載ライダーと無人航空機の潜在的役割についても述べました。

マルゴラザタ・ブシュコ-ブリッグス氏は国連食糧農業機関(FAO)の林業および景観修復の取り組みについて発表しました。同氏は森林再生を特に取り上げている気候変動に関する政府間パネルの特別報告や、生物多様性の主流化のための分野横断的な取り組みの重要性を強調した最近の生物多様性条約締約国会議での成果、そして森林再生に対するITTOを含めた協力についても言及しました。

最後に、コートジボワールのMALEBI女性協会のデルフィネ・アフォッシ会長は、女性による森林再生事業が収益性の高いビジネスベンチャーに変貌したITTOのプロジェクトの成功例について述べました。木炭の生産に焦点を当てた同協会の女性たちは、森林修復と再造林を行わなければ彼女たちの仕事の原材料である森林を失うということに気づいたのです。 MALEBIはITTOに技術的および財政的支援 を受け、チークとアカシアの樹木を使用して100ヘクタールのAhua登録林を復元し、キャッサバ(女性に即時収入をもたらす現金収穫)の植え付けを行いました。 現在、MALEBI女性協会のメンバーは安定した収入源と木炭生産のための木材の安全な供給を行っています。 このプロジェクトは、同国の天然資源管理における女性のエンパワーメントに対する認識を変えています。

質疑応答では、ITTOが関わるサプライチェーンイニシアティブのための独自の検証または認証スキームを確立するのかどうかについて、ディタレ博士は答え、企業はすでにいくつかの運用検証および認証制度にアクセスしていると述べました。 このイニシアティブによって専門知識、信頼性、透明性の向上に役立つだろうと考えられます。

また、ステークホルダーが考える森林景観の復元に必要なものについての質問に対して、パネリストから次のような様々な見解が出されました。森林景観復元の取り組みの一環として国のニーズに応じて推進することが可能な持続可能なプランテーション種、 単一文化の役割、木質燃料の必要性を考慮し、森林破壊と土地劣化の影響を最小限に抑えることなどが挙げられました。

サイドイベントの参加者は、森林復元が気候緩和と適応、生物多様性と地域の暮らしとの間の橋渡しができるとの見解で一致しました。

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