IUFRO世界大会にて専門家:合法かつ持続可能なバリューチェーンはSDGsにとって重要

2019年10月9日, 横浜

第25回IUFRO世界大会でITTOが実施した専門分科会のスピーカーとモデレーター。左から:スティーブン・ジョンソン氏(モデレーター、ITTO)、アンドレア・オルブリック氏(ヨハン・ハインリヒ・フォン・チューネン(農村地域・農林水産連邦)研究所)、フランシスコ・カダヴィード氏(パナマ環境省)、ケイディ・ランカスター氏(米国農務省森林局)、タイス・リナーレス・ジュベナル氏(FAO)、フランシスコ・ペレイラ氏(ブラジル農政研究公社)、ゲァハート・ディタレ博士(ITTO)。写真:R. Carrillo/ITTO

クリチバ(ブラジル)で開催された第25回 国際森林研究機関連合(International Union of Forest Research Organizations:IUFRO)世界大会で2019年10月1日にITTOが実施した専門分科会に登壇した専門家によると、森林バリューチェーンは、雇用創出、女性のエンパワメント、気候変動緩和につながり、多数の持続可能な開発目標(SDGs)に寄与し得るとのことです。

本分科会「熱帯地域の持続可能な森林経営を推進する要因としてのグローバル・グリーンサプライチェーン("Global green supply chains as a driver for sustainable forest management in the tropics")」の登壇者は木材のサプライチェーンの様々な過程における研究や最近の経験について発表し、市場が持続可能な森林経営(sustainable forest management:SFM)の推進力となる潜在性を示しました。
 
ITTO事務局長のゲァハート・ディタレ博士は最初に登壇し、熱帯木材のサプライチェーンの合法性、持続可能性、収益性の様々な側面について述べました。合法かつ持続可能なサプライチェーンの構築には、広範なステークホルダーの関与と行動が求められ、このような人々が持続可能かつ合法な生産を実現するため協調的に関わり合う必要があるということです。
 
ディタレ博士は次のように話しました。熱帯地域の木材生産国の大半はグリーンサプライチェーンを構築する意思があるものの十分なインフラと技術を持ちません。国・国際レベルでのキャパシティビルディング、奨励策、資金調達、情報やデータへのアクセス供与、法の支配および生産業者、購入者、加工業者、市場間の緊密な対話と協力がグリーンサプライチェーンの実現可能性を増大させるでしょう。
 
ディタレ博士はまた、気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change:IPCC)の最新報告書ではバイオ経済、気候変動緩和、SDGsの達成に向けて前進する手段として森林と森林製品の役割が強調されていることに留意しました。
 
国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization of the United Nations :FAO)森林ガバナンスと経済学(Forest Governance and Economics)チームリーダーのタイス・リナーレス・ジュベナル氏は発表の中で、最近の評価では森林が貧困緩和、食料安全保障、女性のエンパワメント、陸域の生物、気候行動、クリーンエネルギーおよびイノベーションにもたらす貢献が検証されていると指摘しました。木材のバリューチェーンは、森林保全を強化し、気候変動緩和に寄与し、いくつかのSDGsを達成する力を有しています、と述べました。
 
リナーレス・ジュベナル氏は「バリューチェーンバスケット(組み合わせ)」アプローチについて話しました。このアプローチは多くの生態系サービスと森林や樹木が生み出す木材製品および木材以外の製品において土地所有者やその他の人々にとっての相乗効果を導き出し相反作用を可能にし得るものです。動的システムでは、このようなバスケットの持続可能性は可能なバリューチェーンがその潜在能力の範囲内で築かれ、他の存在を妨げない時に最も適切に達成されると考えられます。
 
この他の発表では、合法かつ持続可能な森林バリューチェーンの振興に資するようデザインされた技術革新について取り上げられました。
 
ブラジル農政研究公社(Brazilian Agricultural Research Corporation:EMBRAPA)研究員のフランシスコ・ペレイラ氏は「BOManejo」として知られるソフトウェアツールについて発表しました。このツールはブラジルアマゾンで法律により義務付けられているSFM計画の作成、承認、実施に役立てられています。
 
BOManejoは知識と新技術の入手を容易にしており今後はアマゾンでSFMにも統合され得るプラットフォームです。例えば、監督官庁の丸太輸送承認システムに統合することができ、作業地図や木材認証地図の作成、収穫対象または留保対象の樹木の位置の確認、収穫作業の進捗のモニタリングにも活用可能です。BOManejoはITTOの資金協力によりEMBRAPAが実施したプロジェクトで開発されました。
 
アメリカ合衆国農務省森林局国際プログラム(US Forest Service International Programs:USFS IP)のケイディ・ランカスター氏によると、木材輸入申告の審査項目は多数ありますが、その1つとして貨物に複数の樹種が含まれていないかどうかを調べます。USFS IPの木材特定および審査センター(Wood Identification and Screening Center:WISC)は、複数の樹種が疑われる場合、完成品の樹種申告書の記載内容との不一致がないかどうかを特定するための蛍光灯を利用した審査手順を開発しました。多くの木材種は365ナノメートル(nm)の光を照らされることで簡単に探知することができる固有蛍光を持っており、従来の木材解剖学での樹種特定ではこの特性が利用されています。一致しない蛍光反応が検知された場合、積荷の中からより高度な法医学識別の対象となるものを効果的に絞り込むことができます。WISCはハイリスク・ローリスクの樹種別に木材蛍光の視覚データベースを開発中です。現在、この審査手順は現場の税関職員の効率的な業務遂行に役立てられています。
 
パナマ環境省(MiAmbiente)森林局長のヴィクトル・フランシスコ・カダヴィード氏は、ダリエン県(パナマ)で試行的に実施されている木材追跡システムについて発表しました。このシステムは既に森林ガバナンスの向上や違法性の減少につながっており、森林経営者、木材業者、政府、森林に恩恵をもたらしています。このシステムでは、電力装置(チップ)を用いることにより、年間作業計画で特定時から市場に並ぶまで樹木を追跡することができます。紹介されたビデオによると、このシステムは試行段階で毎日約700の作物樹の情報を収集しており、環境省は国内の他地域への普及を計画しています。この追跡システムはITTOの資金協力により世界自然保護基金パナマ(WWF-Panama)がパナマ環境省との協力で実施したプロジェクトの成果物です。
 
ヨハン・ハインリヒ・フォン・チューネン(農村地域・農林水産連邦)研究所(ハンブルク(ドイツ))(以下、チューネン研究所)のアンドレア・オルブリック氏は、木材と木材製品の原産地、種、属を検証する技術について発表しました。違法木材が市場に出るのを防ぐための法令が施行されて以来、多くの森林製品類の種の特定と原産地の証明が次第に重要となってきました。チューネン木材原産地に関する技術センター(Thünen Centre of Competence on the Origin of Timber)は政府機関、木材取引団体、消費者および組合に対して原産地の判別を行なっています。
 
オルブリック氏は、アジアの広葉樹に適した基準物質がないため、パルプ、製紙、繊維板に利用される木材の特定に伴ういくつかの難しさを説明しました。チューネン研究所は今日までに38種類の樹種または種属(竹とヤシを含む)を分析し資料を出版しました。分析済みの木材はパルプ、製紙および繊維板で特定することができます。
 
様々な登壇者間の議論や会場からの情報・アイデアが交わされましたが、世界規模の課題の解決に向けた有力な手段として生産力のある森林や森林関連のバリューチェーンの整備と開発には強固な科学基盤が必要であるという点で意見が一致しました。
 
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