熱帯地域の火災: ITTOが熱帯地域における森林火災に焦点を当てる
2025年6月10日, ローマ

ITTOは、グローバル・ファイヤー・ハブ・プレナリー2025において、熱帯林火災に焦点を当てるサイドイベントを開催しました。写真: FAO/Roberto Cenciarelli
近年、森林火災は世界的なニュースとして多数取り上げられています。記録上最も暑い年となった2024年には、火災によって、広大な熱帯林が焼き尽くされました。
「熱帯地域の火災に注目する必要性と重要性が高まっています。」と、国際熱帯木材機関(ITTO)のジェニファー・コンヘ森林経営長は、2025年6月10日にイタリア・ローマで開催されたグローバル・ファイヤー・マネジメント・ハブ・プレナリーにおけるサイドイベント「熱帯地域における火災行動の変化への対応と統合的火災管理」(Responding to Changing Dynamics of Fire Behavior and Integrated Fire Management in the Tropics)の開会挨拶で述べました。
グローバル・フォレスト・ウォッチ(Global Forest Watch)とメリーランド大学が最近発表した報告書(英語)を引用し、コンヘ森林経営部長は2024年に焼失した熱帯原生林の面積が2023年の5倍に上ったと指摘しました。これらの火災はほぼすべてが人為的なもので、農業用地を開拓するために使用した火が、周辺の森林に広がったケースがほとんどです。
コンヘは、そのような移り変わりに起因する深刻な結果として、温室効果ガスの排出増加、森林の劣化、生物多様性の喪失、生計や公衆衛生へ与える破壊的な影響が挙げられると強調しました。 彼女は、すべての地域で統合的火災管理(IFM)についてまだ多くのことを学ぶ必要があると指摘しつつも、熱帯地域と温帯または寒帯地域の間で、火災の行動に関する知識とIFMリソースに大きな格差が存在すると述べました。また、特に熱帯地域内の生物群系、要因、能力、社会経済的文脈の複雑な違いを考慮すると、熱帯地域におけるIFMはより一層注目され、投資を受けるべきであると強調しました。
FAO本部内のレッドルームで1時間にわたって実施された議論は、アフリカ、アジア太平洋、ラテンアメリカを代表する3人の専門家によって熱帯火災管理の最前線からの知見が共有され、情報量の多い有益なものとなりました。
地域的な視点から見たグローバルな危機
ガーナのCSIR森林研究研究所(Ghana’s CSIR-Forestry Research Institute)の主任研究員、ルーシー・アミッサ氏は、過去40年間で同国の火災制度に大きな変化が生じたと指摘しました。
「ガーナでは、火災のパターンに大きな変化が生じています。」と彼女は説明しました。「1983年以前は、移行帯で火災が発生していました——ゆっくりと広がり、影響の少ない地表火です。(しかし)1983年のエルニーニョ以降、ガーナにあったほぼすべての植生帯が焼失しました。以来、毎年火災が発生しています。」
これらの火災は「森林の構造と組成に影響を及ぼしています。」と彼女は指摘しました。「移行帯に位置する森林保護区のほとんどが、良好な森林からサバンナへと変化しました。」とアミッサ博士は述べました。また「移行帯に位置する保護区のほとんどで、乾季の降水量が約30%減少しています。」と付け加えました。
インドネシアでは、泥炭地の劣化が火災の脆弱性と気候の状態を悪化させています。
「2001年から2021年までの21年間の調査期間中に、泥炭地火災の件数増加が、気温の上昇と降水量の減少と密接に関連していると明らかになりました。」と、林業省(Ministry of Forestry)森林火災管理部の副部長であるイスラール・アルバー氏は述べました。
インドネシアは現在、コミュニティの参画を通じた予防を重視しています。「この取組は、山火事と被害の発生を軽減するための根本原因に焦点を当てるとともに、コミュニティの意識向上や水位管理などのフィールド活動も実施しています。」とアルバー氏は説明しました。「私たちはさらに『消失のない土地に向けた備え』と名付けた取組を開発し、ITTOの支援を受けたプロジェクトによって、同取組のガイドラインも開発しました。」
ブラジルでは、火災は土地利用と森林伐採と密接に関連しています。
ブラジルは「異なる火災パターンを有する独自の生態系を有しています。」と、アマゾン環境研究所(Amazon Environmental Research Institute: IPAM)のサイエンス・ディレクターのアネ・アレンカー氏は述べました。
彼女は2024年の干ばつによって、火災のレベルがこれまでの範疇を超えたと説明しました。「2022年にはアマゾンの立木林の15%が森林火災の影響を受けたのに対し、2024年には45%に達し、これは非常に異常な数値です。」
彼女は、火災管理の転換——反応的から予防的へ——が必要だと強調し、消火よりも予防を優先すべきと強調しました。
熱帯地域における統合火災管理の強化
統合火災管理の喫緊のニーズについて尋ねられたパネルリストらは、能力強化、リスクマッピング、回復を強調しました。
「ガーナにおいては、火災リスク評価を実施することが極めて重要だと考えています。なぜなら、これにより限られたリソースをどこに配分すべきかを判断できるからです。」とアミッサ博士は述べました。これと並行して、多様な方法やアプローチを活用して火災管理計画、政策枠組み、火災後の回復戦略を策定するための能力開発が必要です。
アルバー氏は、インドネシアの「5R」フレームワーク――リスク削減、レディネス(備え)、レスポンス(対応)、リカバリー(復旧)、再生(レストレーション)――を紹介し、特に予防と復旧の重要性を強調しました。彼にとって復旧は極めて重要であり、地域住民の参加、モニタリング、法の執行を通じて、焼失地の再生を進めることが含まれます。地域社会の関与が鍵となります。「私たちは2,000を超える消防隊」と「少なくとも10,000人の消防ケアコミュニティのメンバー」を有していると、アルバー氏は報告しました。
アレンカー博士は、火災が重要な土地管理ツールであることを認めました。私たちは、必要のない場所での使用を最小限に抑えつつ、より効果的に火を管理する必要があります。この実現のため、彼女はより良いツールとガバナンスの強化を呼びかけました。「火災に関する情報収集能力とツールを向上させ、様々な規模で活用するための能力向上を支援する必要があります…予防と意識向上の取組を強化する必要があります。」
彼女は、火災を「林業だけの問題」として扱うことについて警告しました。火災管理には、林業、農業、環境、執行機関など、省庁、自治体、セクターを越えた協働が不可欠であり、地方と国家の両レベルで実施される必要があります。

熱帯火災ワーキンググループの設立に向けて
サイドイベントでは、グローバル・ファイア・マネジメント・ハブが熱帯林に関するサブワーキンググループを設置すべきかどうかについても議論されました。
アミッサ博士は、熱帯地域では社会文化的背景が異なるため、そのアイディアを支持しています。「ガーナでは、ほとんどの火災は人為的要因、つまり人間の生計に関連する要因によって引き起こされています。」と彼女は述べました。熱帯に関する作業グループは、早期警戒システム、火災後の回復方法、火災教育、地域ツールと訓練のためのリソース動員を支援できる可能性があります。
アルバール氏は、熱帯生態系の独自の生物多様性と関連する火災リスク、特に泥炭地と熱帯雨林におけるリスクを強調しました。彼は、作業グループが森林火災の文脈で財務メカニズム、コミュニティ・エンパワーメント、官民パートナーシップ、循環経済に焦点を当てることができると信じています。
熱帯雨林での火災対策は独自の課題を抱えており、知識共有のプラットフォームが急務です。「私たちは、コミュニケーションや情報交換、相互に学び合うための場を活用できると考えています。」とアルエンカー博士は述べました。「世界中のそれぞれ異なった森林におけるこれらの火災の影響を、より深く理解する必要があります。」
熱帯火災管理のための新しいツールキット
セッションの最後に、コンへ氏はITTOが現在「熱帯火災管理ツールキット」を開発中であることを発表しました。これは、熱帯諸国向けに調整されたガイドライン、政策、ツールを含む既存の熱帯火災に関する知識のデジタル情報共有プラットフォームです。目標は、既存のガイドライン、データ、ツールを直感的でインタラクティブなポータルに整理し、知識のギャップを埋めることです。
世界は火災リスクに気づき始めていますが、熱帯諸国は数十年にわたりそのリスクと共存してきました。「1990年代から、ITTOは森林火災を深刻な問題として強調してきました。」と、シャーム・サックルITTO事務局長は述べました。「熱帯火災管理は、気候、生物多様性、開発目標の観点から、より一層注目される必要があります。」
関連URL
TFU 24-2: 森林火災を取り締まる
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事業分野: 統合森林火災管理