新種のヤシが「発掘」される ―ITTOプロジェクト担当の科学者、奇妙な種との最初の出会いを回想

2023年7月13日

2015年にサラワクを訪問し、ペナンの人々の話に耳を傾ける科学者およびITTOプロジェクト・マネージャーのポール・チャイ(左)。写真:W. Cluny

2023年7月13日、マレーシア、クチン: マレーシアのサラワク州にあるランジャック・エンチマウ野生生物保護区で、地中で花を咲かせ、実をつけるという、科学的には新種のヤシが発見され、マスコミを騒がせています。科学的に解明されたのはつい最近のことですが、地元では古くから知られ、愛用されてきたそうです。この種の発見は、2023年6月に発表されましたが、元々は科学者かつITTOプロジェクト・マネージャーのポール・チャイによって1998年に見出されていました。
 

ITTOプロジェクト [1] のフェーズ2でランジャック・エンチマウ野生生物保護区を訪れたとき、エンカリ川上流の川沿いのベースキャンプで一夜を過ごしました。」とポール・チャイ博士は振り返りました。「ベースキャンプの背後に広がる森は、なだらかな地形の低地のフタバガキ混交林で、砂質粘土の土壌です。ヤシは川岸から5メートルほどのところに生えていました。普通のヤシに見えましたが、青々とした濃い緑の葉を茂らせた立派な姿に惹かれ、写真に収めたくなりました。生い茂った葉に埋もれて茎が見えなかったので、枯葉をかき分けてみると、驚いたことに、花と果実が地中に隠れていました。緩い砂地の土壌は、繁殖に十分なスペースと酸素を供給する理想的な環境を提供し、地下で花を咲かせる習性によく合っているのでしょう。」

チャイ博士は、この発見に興奮したと語りました。

「サラワクの森を30年近く歩き回っていて、地下に花を咲かせる植物を見たのは初めてでした。科学的に新しい発見だと確信しました。」とチャイ博士は語りました。

しかし、この発見が一般に知られるようになるまで、さらに20年待たなければなりませんでした。

チャイ博士は「私が撮影した写真は、残念ながら2004年のクチンの大洪水で破壊されてしまいました。」「2018年にキュー王立植物園からヤシの専門家であるジョン・ドランスフィールド博士が2人の学生を連れてサラワクを訪れたのですが、私は彼らにヤシの発見について話すまで、そのことを忘れていました。学生たちは現場に行き、ヤシを見つけてきました。」と語りました。

ガーディアン紙(英語)から引用されたキュー王立植物園のフューチャーリーダーフェロー、ベネディクト・クーンホイザー博士によれば、この種、ピナンガ・サブテラネア(Pinanga subterranea)は「地面の下で花を咲かせ、実をつけるヤシの中で唯一知られている種」です。クーンホイザー博士は、そのヤシの標本を収集し、新種であることを確認したチームの一員です。

チャイ博士を含むクーンホイザー博士率いる科学者グループによって発表された論文(英語)によると、地中での開花(geoflory)と地中での結実(geocarpy)の組み合わせは、どの植物種においても極めて珍しく、これまでヤシ類ではどちらかの片方の事例すら報告されていませんでした。

論文には、ピナンガ・サブテラネアの果実を食べるヒゲイノシシが、果実を掘り起こしたり、食べてフンをしたりすることによって、種子が拡散されていると記されています。甘くジューシーな果肉が特徴のこの果実は、島中の人々にとっても人気のおやつです。

チャイ博士は、ITTOプロジェクト[1] の4つのフェーズで得られた知見から、1500種以上の顕花植物と約600種の菌類が記録されている約200,000ヘクタールのランジャック・エンチマウ野生生物保護区は、サラワクで最も豊かな保護地域のひとつであることが確認できたと述べました。同保護区の植物の中には、新種のヤシ以外にも地中で生殖サイクルを完了する植物が含まれています。

「ピナンガ・サブテラネアはヤシ類の中ではユニークな種ですが、地中での結実はFicus uncinataFicus stoloniferaという学名のイチジクなど、サラワクの他の種にも見られる特徴です。」とチャイ博士は語りました。

シャーム・サックルITTO事務局長は、このような珍しい種の発見は、熱帯林の保全と持続可能な経営の重要性を強調していると述べました。

サックル事務局長は「私たちは、グローバル・コミュニティとして、熱帯林の多様性の全容について、まだ十分な知識を持っていません。」と指摘しました。「簡単に言えば、私たちは何があるのか正確に把握できていないのです。森林が消滅した場合、私たちは何を失うことになるのか、正確に把握することが重要なのです。この生物多様性は、それ自体が貴重であると同時に、将来の人類にとっても貴重な資源なのです。」

チャイ博士によると、ピナンガ・サブテラネアはサラワク北東部のアッパー・バラムでも発見されているそうです。

「そこのケニャ族は、通常使用するビンロウの実(Areca cathethu)が手に入らないときに、このヤシの果実をビンロウの葉と一緒に噛むのです。」「このヤシはよくあるものですが、地下で花を咲かせているのを見なければ、普通は幼木としか思えないでしょう。私も初めてこの植物を見たとき、そう思いました。」

サックル事務局長は、熱帯林の持続可能性と生物多様性の保全のためには、まだやるべきことがたくさんあると述べました。

「ITTOは、熱帯全域の加盟国がその豊かな熱帯林資源を保全し、持続可能な形で利用できるよう支援してきた実績があります。」とサックル事務局長は述べました。

掘り起こされたピナンガ・サブテラネアの根と果実。写真:キュー王立植物園
 

[1] ランジャック・エンチマウ野生生物保護区では、1992年から2012年にかけて、連続して4つのITTOプロジェクトが実施されてきました。: PD106/90 Rev.1(F)(フェーズI)、PD015/95 Rev.3(F)(フェーズII)、PD016/99 Rev.2(F)(フェーズIII)、PD288/04 Rev.2(F)(フェーズIV)である。これらのプロジェクトの詳細と成果は、ITTOのプロジェクト検索機能( www.itto.int/project_search)に上記のコードを入力して検索することができます。 (※すべて英語)