新型コロナウイルス感染症が熱帯林セクターにもたらしている混沌

2020年4月18日, 横浜

ベトナムの木材加工工場。多くの熱帯諸国では木材企業が減産を余儀なくされ、閉鎖に追い込まれた企業もあります。写真撮影:J.C. Claudon/ITTO

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大防止措置により熱帯木材生産国は危機に直面しています。全面的な都市封鎖や移動制限を行っている政府もあれば、これよりも緩やかなアプローチを取っている政府もあります。ITTO市場情報サービス(Market Information Service:MIS)の特派員が関係者に実施した調査によると、熱帯木材セクターでは新型コロナウイルス感染症とその対応により甚大な影響がもたらされているとのことです。

パンデミックによる影響 – 初期調査結果

4月、月に2回発行される熱帯木材市場レポート(Tropical Timber Market Report)に寄稿しているブラジル、ガーナ、インド、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、ベトナムのITTO MIS 特派員は、要請に応え、それぞれのネットワークを活用して新型コロナウイルス感染症の影響に関するアンケート調査を行いました。回収された回答の概要を以下にまとめています。詳細結果は2020年4月16日発行の ITTO MIS  熱帯木材市場レポート24巻7号に掲載されています。今次調査で行なった一連の質問はITTOの貿易諮問グループ(Trade Advisory Group:TAG)のメンバーにも配布されており、回答はITTOのホームページおよび5月発行の熱帯木材市場レポートにて発表予定です。

アフリカ

新型コロナウイルス感染症がアフリカの木材企業にどのような影響を及ぼしているかははっきりわかっていません。感染者の増加に伴いウイルスへの感染はアフリカのほぼ全域で報告されており、主要都市以外へもウイルスが拡大している国が増えています。

世界保健機関(World Health Organization:WHO)に加盟している47のアフリカの国々のうち、複数の場所での感染を報告した国々は4月初めには21パーセントでしたが、最近では60パーセント近くに上りました。

アフリカ諸国では新型コロナウイルス感染症への対応にかなりばらつきがあることから分析は困難ですが、明らかなのは雇用が減っていることです。さらに、今後数カ月間でアフリカ経済では木材セクターからの輸出収入が急激に落ち込むと予想されています。

カメルーンでは製材所が稼働できていないとの報告が特派員からなされています。コンゴ民主共和国では、都市封鎖が実施されていますが、いくつかの木材企業に運営継続の権限が与えられています。コンゴ共和国でも同様に生産を続けている企業があります。特派員の報告によると、赤道ギニアでは新型コロナウイルス感染症拡大防止のための新たな対策に関する大統領令が発表されたものの、引き続き木材が出荷されています。
 

ガーナでは、政府による新型コロナウイルス感染症封じ込め対策によりアクラとクマシでは移動が制限されていますが、原材料と未処理注文が残る製材所では生産を続けています。地方の木材セクターでは人員削減は行われておらず、都市封鎖対象地域外の製材所は国内・海外向けに生産しています。MISのガーナ特派員の報告によると、新型コロナウイルスが収束し措置が解除された場合、感染症拡大前のレベルにまで生産量を戻すのに必要な期間は企業や注文数により差があるとのことです。しかし、原材料が入手可能であれば、3ヶ月で感染症拡大前のレベルまで生産量を増量させることが可能です。

アジア

2020年3月17日に開始されたマレーシアでの活動制限は4月28日まで延長されました。これにより、人々は自宅に自主隔離し、必要不可欠なサービスの営業だけが許可されています。MISのマレーシア特派員は、林業と木材セクターにおける生産は劇的に減速しており、事業者団体は部分的な運営だけでも可能となるよう当局と交渉を行なっていると報告しています。サラワク州やジョホール州など数州では規模を縮小した製造作業が許可されました。

ムアール家具協会(Muar Furniture Association)加盟企業に対して行われた調査では、48パーセントでは2020年3月までに手元資金が既に枯渇したことが判明しました。38パーセントは今後半年の間に100万から500万マレーシアリンギット(MYR)の損失を予測しており、大半は政府による一連の支援策は工場の事業維持には不十分であるとの考えを示しました。

MISのインドネシア特派員は、インドネシアにあるほとんどの木材産業は稼働を継続していますが生産は鈍化していると報告しています。インドネシアでの措置は、4月10日にジャカルタで開始された大規模な社会制限と西ジャワ州と東ジャワ州で予定されている都市封鎖のみであることから、今後2、3ヶ月間は作業を継続する工場があります。

生産の減速の原因はヨーロッパ、米国、いくつかのアジア市場の輸入者による発注の先延ばしです。しかし、インドネシアでの2020年第1四半期の森林製品輸出は新型コロナウイルス感染症の影響を深刻には受けませんでした。

インドネシアで生産量を感染拡大前のレベルにまで戻すのに要す時間(状況が安定した場合)については、政府から産業に対して減税や低金利といった奨励策が実施されるとして、1年以上という見方で一致しています。

報道によると、インドネシア家具・工芸業協会(Indonesian Furniture and Crafts Industry Association)の事務局長であるアブドゥル・ソブール(Abdul Sobur)氏は、小売、ホテル、レストランセクターでの数千人の人員削減に加え、家具製造業者はおよそ28万人の従業員を解雇しなければならなかった(またはやがてそうしなければならない)と示したと述べました。

ミャンマーでは新型コロナウイルス感染症とその対抗措置の両方が小規模企業に打撃を与えており、特に非公式セクターへの影響は甚大です。ミャンマーは4月10日に新年を祝う国民の祝日を迎え、その日までは工場は全て稼働していました。しかし、政府は新型コロナウイルス感染症への対応として「自主的自宅待機」を要請し国内での移動を禁止しました。木材産業では発注の延期が見られましたが、正確な情報を得ることは困難です。木材セクターでは、新型コロナウイルスの流行が制御下に置かれたとして、感染拡大前のレベルにまで増産するのに少なくとも2ヶ月を要すと推測されています。

新型コロナウイルス感染症はベトナムでも壊滅的な影響をもたらしています。状況は目まぐるしく変わっていますが、最悪の事態はまだこれからです。ベトナム林産物・木材協会(VIFOREST)とその関係機関が行なったアンケート調査では、回答した企業の 76パーセントが推定3.066兆ベトナムドン(VND) (1億3,000万ドル相当)の損失に直面していると述べました。財政的な影響はまだ受けていないと回答した企業は24パーセントに止まりました。また、半数以上が減産を余儀なくされ、35パーセントは当面の事業は維持できるが、閉鎖が不可避となる日がそう遠くないかもしれないと考えており、全面的に稼働している企業はわずか7パーセントでした。このアンケート調査では、木材加工セクターに従事する労働者の約45パーセントが新型コロナウイルス感染症の影響で職を失ったことがわかりました。

インドは、新型コロナウイルス感染症の対抗措置として全国ロックダウン措置を2020年5月3日まで延長し、厳格な措置を課しています。経済活動は停止しており失業率はおよそ20パーセントです。この数字には非公式セクターに従事する何100万という無収入者は含まれていません。

インドの港は輸入・輸出ともに閉鎖しています。多くの場合、受領側の港が開いていなければコンテナを動かすことができません。輸入コンテナは陸揚げ・運搬されていないまま置かれていますが、従業員の移動は禁止されています。制限が解除されるまで何も動かすことができません。

南米

新型コロナウイルス感染症による経済への影響とその拡大緩和措置はラテンアメリカの国々に甚大な影響を及ぼしています。

ブラジルの3月の製造活動はこの3年間で最も早いペースで落ち込みました。このために特に非公式セクターの中小企業が損害を被りました。特に都市封鎖や封じ込め対策が実施されたことで同セクターでは大半の労働者が収入源を失いました。

ブラジルの紙パルプセクターは引き続き稼働していますが、固形森林製品の生産は州や自治体によってまちまちです。大規模な制限を実施している州は少ないものの、産業活動を全面的に停止した自治体もあります。

政府は失業の影響を緩和するための規定を設けました。今日までに人員を削減した木材企業は非常にわずかですが、新型コロナウイルス感染症と関連措置の影響は現れ始めたばかりで、今後数週間の間に激化するとみられています。いくつかの国内・海外の発注がキャンセルされ、不可抗力の事態を引き起こしています。

ペルーでは3月16日に告知された全土封鎖により林業と木材作業が麻痺しました。当該セクターの全活動が無期限で停止しています。

回復への道のり

これは異常事態であり、熱帯木材セクターでの雇用減少に歯止めをかけ収益の流れを再建するためには臨時の措置が必要でしょう。

熱帯木材セクターにおける新型コロナウイルス感染症の影響については、現在ITTOがTAGメンバーに対して実施中の調査からさらに情報が得られるでしょう。新型コロナウイルス感染症による影響が鎮静への兆しを見せた時、この調査がITTOの熱帯木材生産加盟国における雇用、生産、輸出の回復をいかに効果的に支援できるかについての発想に寄与することが期待されます。