「ムチロン」による気候変動への取組:COP30への道筋でシナジーを構築
2025年7月30日, 横浜

2025年7月29日に横浜で開催されたISAP2025の本会議で講演するシャーム・サックルITTO事務局長。写真: Paula Sarigumba/ITTO
3月、ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ大統領は「ムチロン(mutirão)」を提唱しました――これは気候変動への即時で集団的な取組と脱炭素化経済への迅速な移行を求める強力な呼びかけです。「ムチロン」は「気候変動に向けた国際社会のCOP30の取組」と位置付けられ、ブラジル・ベレンで開催される国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(UNFCCC Conference of the Parties: COP30)の基調を決定付けました。
ブラジルの先住民族の伝統に根ざした「ムチロン」は、「共通の目標に向けた人々の大規模な共同作業」を意味します。この文化的な概念は、現在、COP30議長国としてブラジルの指針となるビジョンとなっています。
7月29日に日本・横浜で開催された「持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(International Forum for Sustainable Asia and the Pacific: ISAP)2025」において、在京ブラジル大使館のエネルギー・環境・農業部門のトップであるエンヒッケ・エレー氏は、ルーラ大統領の呼びかけを繰り返しました。全体会議で同氏は、ブラジルのCOP30議長国としてのリーダーシップの下で「国々、社会、個人が協力して問題を解決する」ことを期待していると強調しました。
COP30を控える中、これまで以上に早急に、気候変動への取組を持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)に合うものにする必要があります。気候変動の緩和は、単に排出量を削減する手段としてだけでなく、適応力の向上、土地の回復、循環型バイオエコノミーの推進、社会的公平性の促進といった相乗効果をもたらす触媒として捉える必要があります。効果的な真のネット・ゼロ社会(net-zero society)への移行を実現するためには、相乗効果を重視した横断的なアプローチが不可欠です。
ISAP 2025のセッション「COP30に向けた提言:ネット・ゼロと持続可能な開発を実現するシナジーアプローチによる気候変動対策(Accelerating Climate Action Through a Synergistic Approach: Delivering on Net-Zero and Sustainable Development at COP30)」で、国際熱帯木材機関(ITTO)のシャーム・サックル事務局長は、同機関の総合的な解決策への長期にわたる貢献を強調しました。「ITTOは、緩和、適応、SDGsの達成に貢献する自然に基づく解決策を提供しています。」とサックル事務局長は述べました。また、ITTOの40年にわたる実績を強調しました。さらに、ITTO加盟国の重要な支援を認め、ブラジルを最大の生産加盟国、日本をITTOの活動への主要な貢献国として挙げました。
COP30を見据え、関係者は、COP29でパリ協定第6条(Article 6 of the Paris Agreement)の完全な実施運用化に関する合意の勢いを活かそうとしています。会議では、専門家らが、信頼性の高い炭素市場や他の第6条のメカニズムが、効果的な緩和を促進しつつ持続可能な開発を支援する方法について議論しました。

「グローバル・ストックテイクの結果(GST, Global Stocktake, outcome)は、気候変動対策とSDGsの統合を進める鍵となるでしょう。」と、ボンからオンラインでセッションに参加したUNFCCC緩和部門のマネージャー、ペルマル・アルムガンピッライ・カリヤニ氏は述べました。「GSTの結果は、包括的で統合的なアプローチの必要性を明確に認識しており、気候変動と持続可能な開発、特に貧困の撲滅に同時に取り組むよう締約国に呼びかけています。」
パネリストたちはまた、集団的な解決策を促進するためには、セクター別および制度的な縦割り構造を解体する必要があることを強調しました。「問題を理解するうえで縦割り(サは重要ですが、行動するためには、それらを協働的かつ相互的な方法で打破する必要があります。」と、エレー氏は述べました。サックル事務局長は、ガバナンスのあらゆるレベルで相乗効果を育むことの重要性を加えました。「シナジーはコミュニティから地域、さらにはその先へと広がっていかなければなりません。」
グローバル気候問題シニアスペシャリストのプルヴィ・メータ氏は、シナジーがイノベーションを解き放つ可能性を強調しました。「シナジーとは、新たな機会を活用することでもあります。」と彼女は述べ、気候関連の技術や適応ソリューションの新たな市場を例示しました。「気候変動は生態系の問題ですが、同時に経済的なチャンスでもあります。」
ブラジルが「トロピカル・フォレスト・フォーエバー・ファシリティ(Tropical Forests Forever Facility)」の設立を提唱したのを受けて、サックル事務局長は気候変動対策資金を森林により多く充当するよう主張しました。「私たちが共にできることは、気候資金の一部を森林に振り向けるよう説得することです。」と彼女は述べました。
「気候資金は大幅に増加していますが、森林への資金も等しく増加しなければなりません。完全に保護された森林であれ、持続可能な経営と合法な伐採が行われた森林であれ、森林は気候変動対策と生物多様性保全の核心であり、森林に依存する人々の生計を守る役割を果たします。食料安全保障は重要であり、木材の安全保障も同様です。森林は二酸化炭素を吸収・貯留し、木材の使用は二酸化炭素をライフサイクル全体で貯留します。これらの事実が、森林とその派生物が最も効果的で再生可能な自然に基づく解決策の一つであることを証明しています。」と彼女は付け加えました。
COP30への道を切り拓く中、ITTOはブラジルと共に「ムチロン」(集団的・包摂的な気候アクションの実施)のビジョンを推進します。人々の志を結集し、気候アクションを持続可能な開発と一致させることで、COP30以降も持続可能な影響を及ぼすことができます。
---------------------
国際環境戦略研究所(Institute for Global Environmental Strategies: IGES)が主催する「持続可能なアジア・太平洋国際フォーラム(ISAP)」は、アジア・太平洋地域における持続可能な開発に関する情報共有と多様な議論を促進するため、毎年開催され、国際機関、政府、企業、NGOなどから、現場の専門家や多様なステークホルダーが参加しています。同フォーラムでは、国際機関、政府、企業、NGO、知識・情報共有の分野から多様な専門家とステークホルダーとの最新の議論の場を提供し、実践者との幅広い知識・情報共有を促進してきました。今年のテーマは「変化する世界:公正な移行を通じて持続可能な未来を形作る方法」です。