ウェビナー:中米・メキシコの森林景観再生の鍵は地域住民の暮らし

2021年9月16日

エコツーリズム、農業、林業など様々な用途で利用されているメキシコの森林景観。写真撮影:R. Carrillo/ITTO

横浜、2021917日:森林景観再生(FLR)は多面的な取組で、それが成果をあげたと言えるのは地域住民の暮らしが向上した時です - ITTOと熱帯農業研究高等教育センター(CATIE)が最近共同開催した中米・メキシコ向けのウェビナーではこのような意見が述べられました。

本ウェビナーは、全世界向けに森林景観再生(forest landscape restoration:FLR)をテーマとして企画された研修シリーズの第1回で、ITTOが2020年に出版した「熱帯地域における森林景観再生(forest landscape guideline:FLR)のためのガイドライン(Guidelines for Forest Landscape Restoration in the Tropics」(英語)(以下、ITTOガイドライン)についての認識と理解が深められるよう組み立てられました。

ウェビナーは2021年8月19日に開催され、中米諸国とメキシコのFLR専門家およそ70名が参加しました。CATIE、国際自然保護連合(International Union for Conservation of Nature:IUCN)、世界資源研究所(World Resources Institute:WRI)、民間気候変動研究所(Private Institute for Climate Change)及びエルサルバドル環境天然資源省(Ministry of Environment and Natural Resources)といった多数の団体が登壇しました。

ウェビナー開会時、ITTOガイドラインの共同執筆者であるセサル・サボガル博士は、FLRは熱帯地域を含む世界各地で森林景観の劣化の広がりを抑え元の姿に戻すために非常に必要とされています、と話しました。「しかし、FLRは人々の暮らしの改善につながって初めて成果をあげたと言えます。さらには、その過程で特に農業従事者や他の小規模所有者といった地域住民の全面的な関与があり、地域住民の考え方や背景への理解が伴うことも条件です。」

発表では、計画策定からビジネスモデル・ツールに至るまで、FLRに関わる幅広いテーマを扱い、実践的な経験を紹介しました。

CATIEのロジャー・ビジャロボス氏は、FLRには、明確なセクター間ガバナンス構造、幅広い様々な分野を代表する利害関係者の参加、及び主要なアクター、その関わり方並びにFLR実施過程でアクターに及び得る影響が明らかにされなければならない点に言及しました。

WRIのレネ・サモーラ氏は、「社会景観(ソーシャル・ランドスケープ)」ツール(社会的認識に基づき利害関係者を特定するための簡易的手法)を用いたチリとグアテマラでのケーススタディを示し、国レベルの参加型プロセスの重要性を述べました。この事例から、森林景観の劣化の原因とその解決策についての様々な考え方を理解することで、外部不経済を最小限に留めFLRの効果が最大限に発揮されるような利害関係者間の有効な合意形成が可能となることが示されました。

IUCNのシルビオ・シモニット氏は、メキシコ・オアハカ州のFLR計画策定アプローチを説明しました。このアプローチでは、長期的に恩恵をもたらし実質的な環境改善を実現するような地域別の優先順位や活動を特定します。このケーススタディから、生産性のあるモデルに基づくFLRは、他の土地利用に代わって経済的収益性や様々な社会的恩恵をもたらす実行可能な手段となり、劣化の抑制にも資することがわかりました。重要な点は、再生に向けた取組に、生産性のある景観での自然植生の保全に対する奨励策と再生を結び付ける適切な規制措置と資金調達モデルが伴うことである、とシモニット氏は述べました。

CATIEのウラディミール・バレラ氏は、FLR戦略においてビジネスモデルが果たす役割や地産品・サービス市場を推進する必要性を探りました。「森林再生・経営戦略は市場機会に直結しなければなりません。」とバレラ氏は話しました。「森林経営体制が収益を伸ばせば、森林景観の再生と保全に向けた強力な奨励策の後押しとなるでしょう。」

グアテマラ・ラチュア(Lachuá)地域におけるカカオ主体のアグロフォレストリー体制の事例は、劣化景観再生を目指す生産性のあるバリューチェーン開発における課題の好例です。IUCNのタニア・アムール氏が紹介したこの事例は、再生を中心に据えるバリューチェーンの開発には何10年もの時間がかかることを示しました。また、土地所有権、販売促進活動、技術経営、資金調達、環境のような継続的な取組も多面的なFLRプロセスには求められます。

この他、景観再生策の特定・選出、農業景観中の川岸の再生における民間セクターの経験、炭素貯留量を増やし、生物多様性を保全し、持続可能な暮らしを創造するための有効な手段としての二次的森林経営を通じた森林被覆率の回復、エルサルバドルでの再生バロメーター(Restoration Barometer)という柔軟なFLR進捗報告ツールを用いた全国モニタリング、FLR事業の開始時点からのコミュニケーションの重要性が取り上げられました。

概して、ウェビナーの参加者間では、FLRは非常に複雑な政策的、制度的、財政的、技術的な課題を抱えることから、多様な背景を有す中米・メキシコ地域でのFLR実施にITTOガイドラインのようなツールが不可欠である点で意見が一致しました。
 

本ウェビナーの録画(スペイン語)は次のウェブサイトにて閲覧可能です: www.youtube.com/watch?v=p1GfAdcNAqQ

熱帯地域における森林景観再生(forest landscape guideline:FLR)のためのガイドライン(Guidelines for Forest Landscape Restoration in the Tropics」及び付随するポリシーブリーフ(共に英語)をダウンロードする

本ウェビナーの発表資料と概要(共にスペイン語)をダウンロードする

関連するSDGs

劣化した景観の再生は、特に山村地域に不可欠な物と生態系サービスをもたらし持続可能な暮らしと雇用につながります

生態系が損なわれない状態で残されれば、社会の健全性の維持また持続可能な社会の創造に寄与します

森林景観の再生は、植生や長生林産物中により多くの炭素が貯留されるため、気候変動緩和の一助となります

FLRは、木やその他の森林要素を活用して人と自然が調和を保ちながら共存する健全で強靭な生態系を構築する包摂的アプローチです