熱帯林業の巨人、ダンカン・プーア教授が死去

2016年4月6日

2006年にスコットランド、ハイランドウォークで愛犬スーキーとともにポーズをとるプーア氏。写真提供: J. Blaser

このたび、今年3月にダンカン・プーア教授がスコットランドで逝去されましたことを深い悲しみを持ってご報告いたします。プーア氏はユーモアのセンスあふれる、誠実で歯切れ良い、何よりも熱帯林の偉大な支持者であるとともに、我々ITTO及び国際林業社会における良き友人でした。ITTOの創設者であるプーア氏は最期の時までITTOを支援し続けてくださいました。享年90歳。

プーア氏は長く輝かしい経歴を持っておられました。自然科学で修士号(専門:植物学)を、そしてケンブリッジ大学で博士号を取得。マレーシア、クアラルンプールのマラヤ大学で植物学と科学の学部長の教授、英国の自然保護局長、IUCN科学ディレクターとのちの事務局長、オックスフォード大学で森林科学の教授ならびに林業研究所のディレクターを歴任しました。また、国際環境開発研究所では上級研究員として林業と土地利用計画を策定。ITTOとも多くの事業に取り組み、例えば、1987年には木材生産国における持続可能な森林経営についての初めての調査を実施し、それがのちに画期的な『木がなければ森もない』の出版につながります。また、最初のITTO行動計画の準備にも携わりました。これらの他にも、プーア氏は持続可能な森林経営を推進することを目的としたサラワク州とボリビアへの画期的訪問や、持続可能な森林経営に向けた進捗状況を評価するための基準と指標の開発支援、2006年と2011年にそれぞれ発行した『熱帯林経営状況』の共著者でもありました。

ITTOとEarthscan社は2003年にプーア教授の著書『変化する景観(Changing Landscapes)』を出版。この中でITTOの歴史について述べ、組織の強みと弱みについてベストの分析を行っており、ITTOは「その組織の規模と予算のバランス感覚から、森林に関する議論の質を改善していく影響力を持つようになっている」と結論づけています。

プーア氏は長期的な視野を持つポジティブな考え方の持ち主でした。熱帯林経営への適応アプローチを提唱し『変化する景観(Changing Landscapes)』で順応的管理について次のように述べています。

「順応的管理というものは何世紀も、おそらく数千年の間、例えば遊牧民によって実施されたものに壮大な名前を与えるようなものです。これは事実上、現在のニーズに合うように管理運営されるようになっています。ヨーロッパの私有林は何世紀にもわたる昔ながらの伝統があり、そのために定期的な収入を得るような管理がほとんどなされていません。代わりにこのような森林は資本を調達する必要(家に新しい屋根を取り入れたり、娘のために持参金を提供するため)があるときに得られる資産として蓄積しておきます。または特別な市場機会があるときにも活用されます。熱帯地方の多くの農林業に携わる人々は、同じ原理で森林を管理しています。私は、これは熱帯林の持続可能な利用のために先に進める前方法であると示唆しています。まず前提として土地利用権を確保することですが…このシステムは森林から得られる地域で利用するために必要とされるものと、高付加価値木材などの市場で価値のあるものなどから考えられます。そうすることで、森林のこのシステムと多様性を維持して、柔軟性も保つことができるでしょう。森林資本が消費されるのではなく蓄積されることが奨励されるべきで、同時にバイオマスの現存量を増やしていくことは炭素貯蔵にもつながるでしょう。」

プーア氏は1949年に妻ジュディと結婚後、二人の息子- ロビンとアラスデア- と愛犬スーキーとともに暮らしました。 夫妻のおもてなしは有名でスコットランド、ハイランド地方の奥地に長年住んでいましたが、彼らが建てた別館にはITTOをはじめとして多くの仲間たちが招待されました。

いつも世界をより良い場所にするために努力を惜しまなかったダンカン・プーア教授の死に哀悼の意を表します。世界的な森林政策や制度形成に重要な役割を果たした彼は、私たちに偉大な知識と洞察力の詰まった功績を残してくださいました。プーア教授のこうした功績、ご自身の人間性と真の友情に対して感謝いたします。

寄せられたお悔みのメッセージ----------------------------------------------------

「ダンカンは、これまでのITTOの発展にとって欠かせない素晴らしい人でした。彼は国際熱帯木材協定原案の起草にも携わりましたし、その後、同協定発効のために必要な批准レベルを確保する上で重要な役割を果たしました。先駆的な取り組みである、基準と指標ならびに持続可能な熱帯林経営に関するガイドラインはまさにダンカンの専門知識と膨大な知識量に負うところが大きかったのです。マレーシア、サラワク州への前例のない政治的にも難しかった訪問を成功させるには彼の参加が不可欠でした。ITTOの活動に付加価値が与えられるだろうと考えられる数々の困難な課題にも取り組んでこられました。私たちはこの偉大な紳士と良き友人との別れを惜しみます。」-ITTO初代事務局長B.C.Y. フリーザイラー博士


「ダンカンは私が熱帯林業界で出会った中でも最も聡明で雄弁でそして魅力的な人物の一人でした。世界を前向きに変化させるための彼の努力は本当に誠実そのものであり、時間を惜しまず、そして常に礼儀正しい人で、熱帯林とそこで暮らす人々、そしてその支援者たちに大きな関心を寄せていました。また、熱帯林経営状況に関する重要な報告書3件をまとめた中心人物でもありました。最初に取りまとめたのが『木のないところに木材もない(No Timber Without Trees)』で、その後のITTO事業の土台作りとなったのです。1999年編集のダンカンの著『次はどこに(Where Next?)』で証明されるように彼の優れた仕事ぶり、もたらしてくれた利益と貢献は森林業界と人類の未来に反映されており、現在抱えるジレンマについて異なる視点から考察を述べています。ダンカンを失う悲しみは量り知れませんが、彼の残してくれた功績、レガシーが慰めになるでしょう。」-国連森林フォーラム事務局長およびITTO元事務局長マノエル・ソブラル・フィリオ博士


「ダンカンは聡明で思慮深く、そして愛すべき人物でした。彼が周りの人々や様々な問題に与えた影響は計り知れません。ダンカンは彼の世代の中でも偉大な環境保全リーダーのひとりで、その功績は世界中の森林関係者から大変評価され、彼の生涯を通じて熱帯林に献身的かつインスピレーションを持って携わって来られました。熱帯林に対するダンカンの熱意があったからこそ、私たちが適切なツールと方法を用いてこの熱帯林という素晴らしい資源を今日、そして明日の人々の生活のために管理していくことができるのだと理解できるようモチベーションを与えていただきました。彼と一緒に仕事ができたことはこの上ない名誉であり喜びで、長い間彼からはたくさんのことを学びました。ダンカンの存在があってこそ世界は少しは良いところになったのでしょうが、彼を失った今、世界は何かを失いました。」 -元国際熱帯木材理事会議長ステファニー J.キャスウェル氏