持続可能な森林経営:優れた「自然に基づく解決策」

国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)ジャパン・パビリオンにて、ビデオによる開会の辞を述べるシャーム・サックルITTO事務局長。

2024年11月27日、横浜: アゼルバイジャン・バクーで国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)が開催され、ジャパンパビリオンでのセミナーで、持続可能な森林経営(SFM)が自然に基づく解決策の光明として取り上げられました。

11月15日に開催されたイベント「持続可能な森林管理による自然に基づく解決策」は、気候変動の緩和とその影響に対するレジリエンスの強化における森林の重要な役割に焦点を当てたもの。

同セミナーは、日本の国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所(FFPRI)、農林水産省、国際熱帯木材機関(ITTO)が共催しました。

持続可能な未来の中核をなす森林

シャーム・サックルITTO事務局長は開会の辞(英語)で、カーボンニュートラルが実現された経済への移行における森林の極めて重要な役割を強調しました。サックル事務局長は、森林は最も環境に優しい素材のひとつである木材だけでなく、以下のような生態系サービスも提供していると指摘しました。

  • 炭素の隔離と貯留
  • 生物多様性の保全
  • 淡水の供給
  • レクリエーション
  • 土壌侵食の防止
  • 災害リスクの軽減

「森林は、循環型バイオエコノミーと持続可能な未来の構築に不可欠です。」とサックル事務局長はビデオメッセージ(英語)で述べ、持続可能な森林経営と森林景観再生(FLR)の多面的なメリットを強調しました。

日本のレジリエンスへのアプローチ

林野庁 森林利用課 森林炭素取引活性化企画官の越前未帆氏は、自然災害の頻度が高まっていること、そして自然に基づく解決策によって災害へのレジリエンスを高めることができることを強調しました。越前氏は、以下の項目に焦点を当てた日本の国土強靭化基本計画について発表しました。

  • 森林保全の推進
  • 河川流域の災害に対するレジリエンスの強化
  • 森林保全施設の強化
  • 新技術の活用

越前氏は、森林は水源を涵養し、地すべりを緩和し、海岸を守るといったことをはじめとする、重要な機能を果たしていることを説明しました。

パネルディスカッションに登壇した林野庁 森林利用課 森林炭素取引活性化企画官の越前未帆氏。

海岸林: 津波対策のケーススタディ

FFPRIのREDDプラス・海外森林防災研究開発センターのセンター長玉井幸治博士は、2011年に日本で発生した津波の際、海岸林がどのように陸地を守ったかを説明しました。調査の結果、200メートルの海岸林があれば津波の被害を大幅に軽減できることが明らかになっています。また、ベトナムの事例を紹介し、海岸林が防災・減災のための効果的なツールであることを示しました。

再生を通じたコミュニティのエンパワー

ITTOのジェニファー・コンジェ事務局次長(森林経営)は、劣化した熱帯林を再生させ、SFMの手法を導入することで、生計を向上させながら世界的な課題に対処する方法について議論しました。コンジェ事務局次長は、熱帯林の生物多様性保全のためのITTO/CBD共同イニシアティブ(Joint ITTO–CBD Collaborative Initiative for Tropical Forest Biodiversity)の以下のプロジェクトを紹介しました。

コンジェ事務局次長はまた、ITTOの「熱帯地域における森林景観再生のためのガイドライン(Guidelines for Forest Landscape Restoration in the Topics)」(英語)や、森林景観再生プロジェクトの実施から得た教訓や経験についても紹介しました。

森林再生がどのようにコミュニティをエンパワーしたか語るジェニファー・コンジェITTO事務局次長(森林経営)。

マングローブ: 海岸の回復力の守護者

国際協力機構(JICA)地球環境部 国際協力専門員の阪口法明氏は、気候変動の緩和と適応、災害リスク軽減におけるマングローブの役割について詳しく説明しました。マングローブは炭素吸収源として機能し、津波や高潮からコミュニティを守るだけでなく、コミュニティの生計を支える重要な存在です。坂口氏は、JICAが10カ国で行っているマングローブ保全活動から得た知見を紹介し、マングローブが提供する多様なサービスを評価し重要視することの重要性を強調しました。

気候変動の緩和におけるマングローブの役割について語る国際協力機構(JICA)の阪口法明氏。

林業を通じた女性のエンパワーメント

コミュニティ森林経営のためのアフリカ女性ネットワーク(REFACOF)の創設者で、代表を務めるセシル・ンジェベト氏はトーゴとベナンにおけるITTOプロジェクトについて説得力のある説明を行いました。

これらの取組では、150人以上の女性の参加とともに、トーゴのとラックスとブリタにある約100ヘクタールの荒廃した景観を修復し、アグロフォレストリーシステムを導入しました。ンジェベト氏は「プロジェクトは、森林被覆を増加させただけでなく、女性の自信、社会的結束、生計を強化しました。」と、プロジェクトの資金提供者である創価学会へ感謝の意を表しました。

トーゴとベナンにおけるITTOプロジェクトについて語る、コミュニティ森林経営のためのアフリカ女性ネットワーク(REFACOF)の創設者・代表のセシル・ンジェベト氏。

主要なポイント

パネリストは、成功した取組を拡大し、非森林セクターを自然に基づく解決策に統合するための教訓について、考察を行いました。成功のための重要な要因として、次のようなものが挙げられました。

  • 現地での調整の重要性
  • 土地の保有権と利用権の明確化
  • プロジェクト設計の段階で森林減少の要因を理解すること
  • コミュニティの積極的な参加
  • 生態系サービスと生計の重視

セミナーでは、SFMがレジリエンス、生物多様性保全、気候変動緩和への道筋を提供し、持続可能で公平な未来を創造するための貴重な自然に基づく解決策であることが強調されました。


発表資料は以下からダウンロードできます。