ウェビナー報告:南アメリカでの森林景観再生の普及には一層のアウトリーチが必要

2021年10月22日

コロンビア・グアビアレ県エル・リトルノ市パルマリートの農場で実践されているシルボパストラルシステム(牧草地での植林、牧林方式)。写真撮影:© Adolfo Galindo/Walter Galindo

横浜、20211022日:ラテンアメリカ・カリブ海地域で景観再生を促進するには、アウトリーチそして収入の多角化とモニタリングに向けた戦略が極めて重要 - ITTOと熱帯農業研究高等教育センター(CATIE)が共同開催したウェビナーではこのような意見が出されました。

本ウェビナーは2021年9月23日に開催されました。森林景観再生(forest landscape restoration:FLR)をテーマとし、ITTO刊行の「熱帯地域における森林景観再生(forest landscape guideline:FLR)のためのガイドライン(原題:Guidelines for Forest Landscape Restoration in the Tropics)」(英語)の認識と理解が深められるよう組み立てられた全世界向けの研修シリーズの第3回です。南米・カリブ地域諸国からおよそ90名の再生専門家が本ウェビナーに参加し、熱帯農業研究高等教育センター(Centro Agronómico Tropical de Investigación y Enseñanza(Tropical Agricultural Research and Higher Education Center):CATIE)、国際林業研究センター(Center for International Forestry Research:CIFOR)、国際アグロフォレストリー研究センター(World Agroforestry:ICRAF)、国際自然保護連合(International Union for Conservation of Nature:IUCN)、RESTOR(再生に関するデータプラットフォーム)、ペルーのNGOであるAIDER(Asociación para la Investigación y Desarrollo Integral(Association for Integrated Research and Development)の代表者が登壇しました。

CATIEのロジャー・ビジャロボス氏は、FLRは森林生育場所だけでなく景観規模を対象として計画・運営する必要があり(FLR原則1「景観中心に」に一致)、従ってコンセンサスの形成とグッド・ガバナンスのプロセスが求められると述べました。「再生が目指すものは関係する人々にとって不可欠な生態系機能とサービスの回復です。どの地域を再生するかを決める際には、提案されている方策が法律面、社会文化面、財政面で実行可能かどうかを考慮しなければなりません。」

ICRAFのバレンティナ・ロビグリオ氏は、ペルーのアマゾン地域にあるパドレ・アバード(ウカヤリ州)での景観再生活動について発表しました。ここでは、地元地域及び地方自治体の利害関係者が関与する参加型のプロセスを通じて統合型の景観再生・生産性のある土地利用体系計画が立案されました。再生に向けて、様々な種を活用した収入多角化戦略や再生、保全及び気候変動緩和・適応との間の相乗効果を伴う再生設計といったアプローチが取られました。

RESTORのダニエラ・シュワイツァー氏は、ブラジルでのケーススタディをあげながらFLRの原則2(「利害関係者を関与させ参加型のガバナンスを醸成する」)の実践例を示しました。このケーススタディでは、社会文化に関わる問題、ガバナンス、実施にかかる多額の費用及び山村での研修や能力強化プログラムの不足といった課題が浮き彫りとなりました。関係者は、生産性のある再生の導入、有利な法的環境の整備、山村研修の提供といった戦略を提案しました。景観ガバナンスを向上するにあたり、セクター間の壁を打破する規制、土地所有権の保証、複数セクターに渡るプラットホームの利用、費用と効果の公正な配分、文化的奨励策が鍵となりました。

IUCNのマティアス・ピアッジョ氏は、気候変動に直面する中でFLRが経済面で果たす側面について発表し、FLRは気候変動緩和と適応における費用対効果の高い解決策となり得ることを明確に裏付ける証拠があると述べました。

AIDERのマリオルディ・サンチェス氏は、アマゾン地域の先住民コミュニティと共に実施したFLR活動について発表しました。この先住民達は、再生を「より良い暮らし」のあり方を追求する領域一帯の総合的な提案の一部と捉えています。サンチェス氏は、戦略的に複数の関係者の協力関係を築くことが重要であると強調しました。

CIFORのマヌエル・グアリグアタ氏は、モニタリングに焦点を当て、FLRの原則2(「利害関係者を関与させ参加型のガバナンスを醸成する」)及び原則6(「長期的な強靭性を支える適応型の経営を行う」)について述べました。モニタリングは協働型・適応型でなくてはならず、再生にかかる設計と実施において原則2と6が見過ごされることが多いと指摘しました。

CATIEのマリアネラ・アルグエロ氏は、FLR実施の基礎となる社会的合意を形成するのに意思疎通が戦略的に関わりを持つ点を強調しました。相手によって適切な伝達手段を選択し、全ての関係者の声に耳を傾けることが重要であると述べました。

その他、景観アプローチを用いた再生に向けた方策の特定および選定、熱帯林の景観再生にあたっての二次林の関連性といったテーマを扱いました。

マリオルディ・サンチェス氏が述べた、FLRの普及にはアウトリーチの拡大が必要であることが本ウェビナーの主な提言です。

サンチェス氏の発言は次の通りです。「一般的に見て、アウトリーチに資源を投入するFLRのイニシアティブはわずかで、伝達ツールの開発はしばしば最終段階で行われます。重要な利害関係者であっても多くがインターネット環境に乏しく伝達ツールに慣れるためのワークショップやイベントに参加することができないことから、普及活動は確実な知識移転を行うには不十分です。より適切な普及戦略としては、地方レベルで活動し関係者と直接の関係を有している市民社会団体、職能団体および大学との連携が、より円滑な情報移転が期待できることから、一案です。

参加者は、FLRが政策面、制度面、資金面、技術面のいずれにおいても非常に複雑な課題を伴うことから、これを、ラテンアメリカ・カリブ海地域のような事情が大きく変わる地域で実施するのにITTOの「熱帯地域における森林景観再生(FLR)のためのガイドライン」のようなツールが不可欠である点で一致しました。

マヌエル・グアリグアタ氏は、「ガイドラインはFLRの6原則を実践に導く草分け的な取組です。」と述べました。「FLRの概念は20年以上も前から存在するものの、本質的に複数の規模、セクター、時期にまたがるプロセスであるFLRを実践することは容易ではありません。ガイドラインはFLRの設計と実施を前進させる重要な一歩です。次に、これが現場で実践できることを立証し、関与するアクターがその実用性をどう判断するか、不足点や修正点は何かを吟味することでしょう。」

ダニエレ・シュワイツァー氏からは、「FLR運用のためにプロジェクトマネジメントの枠組みを用いたFLR原則の実践手引きを作成する取組は根本的に重要と言えます。」という意見が述べられました。「ITTOの『熱帯地域における森林景観再生(FLR)のためのガイドライン』はこの最初の試みの言うまでもなく明らかな成果物です。FLR原則の実践方法を説明するケーススタディや指針となる要素は、理論を実践に移し、FLRにかかるイニシアティブがFLR原則に則って実施されているかを理解するのに大いに役立ちます。同様に、ユーザーは6原則すべてをきちんと行うことは難しいと考えるかもしれませんが、やってみることそしてこの原則もガイドラインもプロジェクト運営の一助となるためにあることを知ることが第一歩です。」

本ウェビナーの録画(スペイン語)は次のウェブサイトにて閲覧可能です:https://youtu.be/vm_ESTWi-5A

熱帯地域における森林景観再生(forest landscape guideline:FLR)のためのガイドライン(Guidelines for Forest Landscape Restoration in the Tropics)」及び付随するポリシーブリーフ(共に英語)をダウンロードする

本ウェビナーの発表資料と概要(共にスペイン語)をダウンロードする

関連するSDGs

劣化した景観の再生は、特に山村地域に不可欠な物と生態系サービスをもたらし持続可能な暮らしと雇用につながります

生態系が損なわれない状態で残されれば、社会の健全性の維持また持続可能な社会の創造に寄与します

森林景観の再生は、植生や長生林産物中により多くの炭素が貯留されるため、気候変動緩和の一助となります

FLRは、木やその他の森林要素を活用して人と自然が調和を保ちながら共存する健全で強靭な生態系を構築する包摂的アプローチです