第59回国際熱帯木材理事会「貿易と市場の日」ー合同委員会でEUの森林破壊規制が焦点に

第59回国際熱帯木材理事会の「貿易と市場の日」の合同委員会セッションにおける事後評価報告書の発表。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO

2023年11月14日、タイ、パタヤ:国際熱帯木材理事会第59回会合の「貿易と市場の日」では、EUDRとして知られる欧州連合(EU)の森林破壊と森林劣化のないサプライチェーンに関する新規制について活発な議論が行われ、加盟国の一部や貿易諮問グループから規制の潜在的な影響への懸念を示す声が上がりました。

国際熱帯木材理事会では、熱帯木材セクターの発展と動向を探るため、会期ごとに「貿易と市場の日(Trade and Markets Day)」を開催しています。世界中の専門家による多様なプレゼンテーションが実施され、貿易諮問グループ(Trade Advisory Group:TAG)が主催する年次市場ディスカッションで締めくくられます。今年は、市民社会諮問グループ(Civil Society Advisory Group:CSAG)もセッションを設け、EUDR(EU Deforestation Regulation)が小規模農業従事者とコミュニティ林業に与える影響について検討しました。

CSAGによるセッションでは、在タイ欧州連合代表部のローラン・ルデ氏がEUDRの概要を説明しました。ルデ氏は、農地の拡大が森林破壊の主な要因であり、これは農産物の生産と強く結びついていると述べました。EUDRは、森林の伐採や劣化に関連する商品をEU市場から排除することを目的としています。2023年6月29日に発効され、事業者と貿易業者に対する義務は2024年12月から適用されます。

ルデ氏は、EUDRは、関連商品をEU市場に流通させる、あるいはEUから輸出するすべての事業者に対して、義務的なデューディリジェンス・ルールを定めていると述べました。その要件のひとつは、商品と生産地を結びつける厳格なトレーサビリティです。森林破壊のリスクに応じて国や地域にリスク・カテゴリーを割り当てる基準システムが導入される予定であり、そのためのデータ収集がまもなく開始されます。

また、CSAGセッションでは、アジア大洋州林業訓練センター地域共同体(Center for People and Forests:RECOFTC)の副事務局長であるチャンドラ・シロリ博士が、EUDRが小規模農業従事者にもたらす課題について概説しました。例えば、土地の位置情報など、以前よりも多くの情報を提供するよう求められる可能性が高く、国内の法律や規制を遵守しているかどうかについても、より厳しく確認されることになると考えられます。

「この規制は、森林減少と森林劣化の削減、生物多様性保全の促進、SDGsの達成のために有望なものですが、現場でどのように適用されるのか、特に小規模農業従事者にとっては多くの課題があります。」とシロリ博士は指摘しました。

この点については、年次市場ディスカッションでスティーブン・ミジリー氏も言及しました。ミジリー氏は、EUDRやその他の貿易関連規制は、小規模生産者にとって補償されないコスト増をもたらすものであり、頭痛の種となると述べました。

ドイツを拠点とするGDホルツ・サービス社のフランツ・ザビエル・クラフト氏と、GDホルツおよび欧州木材貿易連合のニルス・オラフ・ピーターセン氏は、欧州の木材輸入業者にとってのEUDRの影響について発表しました。例えば、情報を持っている人は誰でも "根拠のある懸念"を提出することができ、当局はそれを調査しなければなりません。

クラフト氏は、これは諸刃の剣であると述べました。一方では、非政府組織(NGO)が実際にEUDRを遵守していないケースを発見するのに役立つかもしれません。しかし、一部のNGOがこの規定を利用して輸入を妨げ、合法的な貿易を混乱させる恐れがあるとも言えます。なお、規制を遵守しない場合は、大きな罰則を受ける可能性があります。

クラフト氏は、熱帯地域の大企業は、すでに十分な準備ができているため、EUDRの遵守は大きな課題にはならないだろうと述べました。しかし、小規模生産者にとって、EUDRの遵守は大きな課題となると考えられます。

貿易と市場の日にEUDRに関する介入を行ったITTO加盟国は、欧州委員会のほか、ブラジル、ニュージーランド、ペルー、米国、ベトナムでした。議場からは以下のような問題が提起されました:

  • 規制を遵守するために必要な技術やリテラシーを持ち合わせていない可能性がある小規模農業従事者にEUDRが与える潜在的影響
  • 多くの木材製品の複雑なサプライチェーンがもたらす困難
  • 山火事で焼失した森林の再植林が、規制の下で森林減少(または森林劣化)にあたるかどうか
  • EUDR導入に備える期間が短いこと
  • EUDRがEUの森林法施行・ガバナンス・貿易(FLEGT)自主的パートナーシップ協定(VPA)プロセスを冗長なものにするかどうか

年次市場ディスカッションの終わりに、TAGはEUDRに関する声明を発表しました。

バーニー・チャン氏が発表した声明では「EUDRの背後にある原則は、熱帯木材貿易が支持するものである。」と述べられています。「森林破壊は、熱帯林の持続可能な利用を基盤とする産業にとって禁忌と言えます。森林減少の主な要因は木材製品の需要ではなく、EUの表現における”農業の拡大が世界の森林減少の90%を引き起こしている”ことであるというEUDRの前文における記載を、TAGは歓迎します。しかし、TAGは、この法律が、条文の中で明示的にも、あるいは法律が課す措置の中に暗示的にも、木材の持続可能な生産と消費が森林保全を促進し、気候変動を緩和することを認めていない点を深く憂慮しています。」

2ページにわたる声明では、TAGが考える「熱帯林資源の持続可能な開発と熱帯木材製品の貿易に不必要な障壁をもたらす可能性がある」EUDRの側面が指摘されています。また、EUに声明で指摘している懸念や、「熱帯林産物の合法的な貿易が、森林破壊のリスクを軽減することに大きく貢献している」ことを考慮するよう求めました。声明は最後に、TAGメンバーは「EUDRの目的に取り組むためのシンプルで実用的なシステムの円滑な実施」を確実にするため、EUと協力する準備ができていると述べました。

CSAGは、野生生物の取引を調査・監視するNGO、TRAFFIC(トラフィック)のチェン・ヒン・ケオン氏による声明の中で、厳格なトレーサビリティや適切な文書化の要求など、中小規模の林業関連企業やコミュニティ林業が直面する「特有の課題と問題」を強調しました。持続可能な伐採に関する技術や意識の低さ、追加的なコスト、特に「地元の管理や透明性の低さに影響され、不正や違法行為のリスクを高めると同時に、コミュニティがそのプロセスや利益から疎外されてしまう」ことを含む、複合的な問題が声明文で指摘されています。声明文では、多くの地域で先住民族と地元コミュニティの権利が不明確であり、「公正かつ公平な議論と交渉を妨げ」となっていること、さらに、「女性の参加は、正式な事業の意思決定レベルではほとんどなく、資金調達へのアクセスは実際のニーズからさらにかけ離れたものとなっている」ことを指摘しています。チェン氏は、理事会メンバーに対し、このセッションに出席している先住民族、地域コミュニティ、女性グループの代表と緊密に話し合うよう促し、CSAGの声明を締めくくりました。

「貿易と市場の日」の他の登壇者は、タイの木材産業が直面する課題、バイオエコノミー移行における森林と林産物の役割、東南アジアの森林投資の柱となるコミュニティ・エンゲージメントと小規模農業従事者、建設業におけるマスティンバーの可能性などを取り上げました。

参加者はこの日、市場アクセス、森林・木材認証、違法伐採と関連貿易に関するアジア太平洋経済協力専門家グループに関する報告を受けました。サラ・ストーク博士とルパート・オリバー氏は、インドネシアとのFLEGT VPA(森林法施行・ガバナンス・貿易 自主的パートナーシップ協定)の影響を監視するための長期プロジェクトである独立市場監視(Independent Market Monitor: IMM)の最終報告書を発表しました。

声明とプレゼンテーションはこちらからご覧いただけます。

国際熱帯木材理事会は、熱帯林の持続可能な経営と持続可能な方法で生産された熱帯木材の貿易を促進することを目的とした幅広い議題について議論するため、少なくとも年に1度は開催されています。

IISDのレポーティング・サービスによるセッションの日々の報道は、以下をご覧ください:https://enb.iisd.org/ittc59-international-tropical-timber-council

第59回国際熱帯木材理事会の「貿易と市場の日」におけるCSAGパネルディスカッションのメンバーとシャーム・サックルITTO事務局長(右から2人目)。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会の「貿易と市場の日」にて、プロジェクト提案の技術評価に関する専門家パネルの報告書を発表する田端朗子氏(日本)。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会の「貿易と市場の日」開催中、林業委員会傘下のITTOプロジェクトについて事後評価報告書を発表するガン・キー・セン博士。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会の「貿易と市場の日」において、森林景観回復に関する14のITTOプロジェクトのテーマ別事後評価報告書を発表するスニーサ・スブラマニアン博士(UNU-IAS)。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会の「貿易と市場の日」に、森林景観回復に関する14のITTOプロジェクトのテーマ別事後評価についての政策報告書を手にするシャーム・サックルITTO事務局長(左から2人目)。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会の「貿易と市場の日」において、パナマにおけるITTO木材追跡プロジェクトの事後評価報告書を発表するホルヘ・マルー氏。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会の「貿易と市場の日」において、ITTOプロジェクトの事後評価報告書のプレゼンテーションを聴く代表者たち。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会を毎日独自に報道するIISD/ENB報道サービス。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会の「貿易と市場の日」において、プレゼンテーション用機材を設置するITTOの周藤富司氏。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会「貿易と市場の日」のCSAGパネルディスカッションで発表するローラン・ルデ氏(在タイ欧州連合代表部)。写真 Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会の「貿易と市場の日」のCSAGパネルディスカッションで発表するチャンドラ・シェカール・シロリ博士(RECOFTC、タイ)。写真 Nonthaphat Saetan/ITTO
国際熱帯木材理事会第59回会合「貿易と市場の日」のCSAGパネルディスカッションで発表するクリスティーン・ウーランダーリ氏(CSAGインドネシア)。写真 Nonthaphat Saetan/ITTO
国際熱帯木材理事会第 59 回会合「貿易と市場の日」の CSAG パネルディスカッションで発表する ローズ・ペラーギ氏(カメルーン、REFACOF)。写真 Nonthaphat Saetan/ITTO
国際熱帯木材理事会第59回会合「貿易と市場の日」のCSAGパネルディスカッションで発表するアリソン・カスティリョ氏(IEB、ブラジル)。写真 Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会「貿易と市場の日」にて、プレゼンテーションのスライドを読む代表団。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会の「貿易と市場の日」で、国連森林フォーラムのジュリエット・ビャオ・コウデヌークポ事務局長に挨拶するITTOのマ・ファンオク氏(左)。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会の「貿易と市場の日」にて、経済・統計・市場委員会の政策活動を発表するITTOプロジェクトマネージャーのテトラ・ヤヌアリアディ氏。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
国際熱帯木材理事会第59回会合「貿易と市場の日」において、経済・統計・市場委員会のもとで政策を発表するコンサルタントのサラ・ストーク氏。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会の「貿易・市場デー」にて、経済・統計・市場委員会の下での政策活動を発表するコンサルタント、ルパート・オリバー氏。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会「貿易と市場の日」に出席したトーゴ代表。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会の「貿易と市場の日」に出席したフィジー、ガーナ、ベトナムの代表団。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会「貿易と市場の日」に出席したオーストラリアとブラジルの代表団。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会「貿易と市場の日」に出席した米国代表団。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会の「貿易と市場の日」における参加者の会話の様子。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会の貿易と市場の日におけるITTO事務局の様子。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会の「貿易と市場の日」で発言するインドネシア代表のノヴィア・ウィディアニンティアス氏。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会「貿易と市場の日」で発言する韓国代表のウォニョン・ソン氏。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
国際熱帯木材理事会第59回会合「貿易と市場の日」にて発言するロベルト・セミナリオ・ポルトカレロ駐日ペルー大使。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
国際熱帯木材理事会第59回会合「貿易と市場の日」にて発言する米国代表のダニエル・カール氏。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会の「貿易と市場の日」にて発言するジュリエット・ビャオ・コウデヌークポ国連森林フォーラム事務局長。写真 Nonthaphat Saetan/ITTO
国際熱帯木材理事会第59回会合の「貿易と市場の日」の年次市場ディスカッションで発表するプリチャ・オンプラサート博士(タイ王室森林局)。写真 Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会の「貿易と市場の日」の年次市場ディスカッションで発表するFAOのリンダル・ブル氏。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会の「貿易と市場の日」の年次市場ディスカッションに出席したスティーブン・ミジリー氏(Salwood Asia-Pacific、オーストラリア)。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会の「貿易と市場の日」の年次市場ディスカッションで発表するリチャード・エバア・アティ博士(CIFOR-ICRAF、カメルーン)。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会の「貿易と市場の日」の年次市場ディスカッションで発表する磯田信賢氏(住友林業、日本)。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会の「貿易と市場の日」の年次市場ディスカッションにおける、フランツ・ザビエル・クラフト氏(GDホルツ・サービス社、ドイツ)とニルス・オラフ・ピーターセン氏(GDホルツ/ETTF、ドイツ)によるオンラインプレゼンテーション。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会の2日目に開催された「貿易と市場の日」において、貿易諮問グループの声明を発表するバーニー・チャン氏。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO
第59回国際熱帯木材理事会の「貿易と市場の日」にて発言するインド代表のサンジェイ・クマール・チョーハン氏。写真 Nonthaphat Saetan/ITTO
国際熱帯木材理事会第59回会合「貿易と市場の日」にて発言するガーナ代表のモハメド・ヌルディーン・イドリス博士。写真:Nonthaphat Saetan/ITTO