アジア太平洋地域における効果的な森林景観再生(FLR)の重要点がワークショップで明らかに

2021年9月29日

AFoCo及びITTOによるアジア太平洋地域における森林景観再生(Forest Landscape Restoration:FLR)に関するワークショップは2021年8月から9月にかけてオンライン開催された。

横浜、2021929日:持続可能な生計を導く機会を創造し、包摂的なアプローチの基に地域住民の賛同を得ることが森林景観再生が成果をあげるために重要 - ITTOとアジア森林協力機構(Asian Forest Cooperation Organization:AFoCo)が共同開催したアジア太平洋地域向けオンラインワークショップではこのような意見が出されました。

2021年8月30日から9月3日まで、AFoCo及びITTOは、アジア太平洋地域における森林景観再生(Forest Landscape Restoration:FLR)に関するワークショップをオンラインで共同開催し、森林再生に携わる実務者やその他の専門家が70名以上参加しました。本ワークショップは、全世界向けに森林景観再生(forest landscape restoration:FLR)をテーマとした研修シリーズの第2回目にあたり、ITTOが2020年に出版した「熱帯地域における森林景観再生のためのガイドライン(Guidelines for Forest Landscape Restoration in the Tropics)」(英語)(以下、ITTOガイドライン)についての認識と理解が深められるよう組み立てられました。中米・メキシコ向けの第1回ワークショップは2021年8月に開催されました。

アジア太平洋地域向けの本ワークショップの参加者は、FLR事業が長く持続するには地域住民と小規模所有者が持続的に暮らせるようにする機会の創造が肝要である点を認識しました。従って、再生された森林景観で産出される製品・サービスのバリューチェーンが経済的に実現可能となるよう分析を行うことが重要です。FLR活動をアグロフォレストリー、生産林及び自然林の保護に組み合わせることで生計手段の多様化が進むことが期待できます。

開会挨拶にて、スティーブン・ジョンソンITTO事務局長代理は、再生に向けた目標やイニシアティブとの関係において有効なFLR策を拡充する必要が迫っており、特に、実施イニシアティブが地域の人々に十分に裨益すること、そして地域の人々がイニシアティブの計画策定段階から実施段階まで密に関わることが鍵となります、と述べました。

「土地を劣化から回復させ、炭素貯留を促し、生物多様性保全に貢献し、地域住民が持続可能な暮らしを営めるようにするためには、包摂的で統合型のFLR策を推し進めることが不可欠です。」とジョンソン博士は話しました。

基調講演者もこの見解を指示しました。

スイス・ベルン応用科学大学(Bern University of Applied Sciences)のユルゲン・ブレイザー氏は、執筆に携わったITTOガイドラインについて、これが政策決定者から森林従事者、住民主体型組織、農業従事者までの利害関係者による劣化した森林景観再生活動に資するツールとなり、必要な物とサービスを行き渡らせ、持続可能な山村の暮らしと雇用を生み、地域にとっても世界にとっても重要な森林生態系による恩恵がもたらされるようにすることを目的としています、と述べました。

国際森林研究機関連合(International Union of Forest Research Organizations:IUFRO)マイケル・クライン氏によると、「FLRプロセスが成果を出せば、生物主体の循環経済の発展が期待できます。地域で目指すものは様々である点を認識し、これに応えることが、世界の再生目標達成への鍵となる」とのことです。

緑の気候基金(Green Climate Fund:GCF)のジェリー・ベラスケス氏は、 気候変動に対する取組にFLRが果たす役割について話しました。「森林景観は、排出量を抑え、途上国が気候変動に強靭な開発の経路を進むための礎です。持続可能で強靭な森林景観には、資本を増やした民間・公共両セクターによる資金協力、そしてREDDプラスの成果支払いの増額が不可欠と言えます。」と述べました。

ワークショップの参加者は、IUCNの再生機会評価手法(Rrestoration Opportunities Assessment Methodology:ROAM)、FLRに向けた社会環境保護、ベトナムのREDDプラスにおける自由意志による、事前の、十分な情報を得た上での同意(free, prior and informed consent)の適用、FLR策に向けた炭素排出量削減分析、関係者・問題分析といったFLRプロジェクト策定手法について学びました。

この他、5日間のワークショップでは次のような点が議論されました:

·       FLRは、多くの国で主要な林業アプローチとなっている森林プランテーションよりも広範囲です。FLRは景観再生を重視しており、相互に作用する土地利用、土地所有権、政府による措置の全てを考慮します。また、景観における複数の社会経済機能や環境機能を復元し、全ての利害関係者が公平に裨益するような幅広い生態系の物やサービスの創出を目指しています。FLRによって自然林や自然生息地が減少・改変してはなりません。気候変動に直面している状況下のFLRのアプローチとは強靭な景観を作り出すために様々な状況に順応し得るものです。

·       森林景観再生が成果を上げるには、包摂的アプローチを通じて地域の人々の賛同を獲得し、その暮らしの向上に資することが重要。FLRの結果、共通の関心である幅広い利害関係者による様々な規模での林産物・生態系サービスの流通が上向かなければなりません。長期的な環境面・社会面の持続可能性を実現するには、暮らしの豊かさが向上し、地域住民や小規模所有者に迅速に恩恵が行き届かなければなりません。

·       様々な国際的メカニズムにおいてFLRに携わる実務者、指定国家機関やフォーカルポイントの関係改善の必要があります。このようなメカニズムとして、国連気候変動枠組条約(UN  Framework Convention on Climate Change)、国連砂漠化対処条約(UN Convention to Combat Desertification)、生物多様性条約(Convention on Biological Diversity)、森林減少・劣化からの温室効果ガス排出削減(UN-REDD)事業があげられ、時間の経過に伴って変化する資金調達先や手続きに関する理解を促すことが目的です。政府の政策上の課題として、様々なアクター間での定期的な相互交流を慣行化することでこの点に速やかに取組む必要があります。

·       FLR事業実施のための共同資金協力を受ける可能性を高めるために、資金援助機関にとってリスク認知が減るような適切な資金調達先に働きかけることが重要。活動の種類に応じた資金調達先が次のように特定されました:

-        炭素貯留と強靭性強化に資する活動 – GCFや適応基金(Adaptation Fund)のような多国間援助機関

-        政府令である活動 – 公共国内財政

-        変革をもたらす活動 – 二国間援助機関やGCF等の多国間援助機関

-        収入創出につながる活動 – 民間資金

-        短期資金が必要な活動 – 公共国際資金

-        長期資金が必要な活動 – 生態系サービスへの支払い(payments for ecosystem services:PES)、炭素市場、民間資金

·       成果発現を促すため、FLR実施機関は質の高いFLRプロジェクト提案書を作成する必要があります。このためには、GCFのプロジェクト準備ファシリティ(Project Preparation FacilityPPF)による資金協力の活用を検討するべきです。PPFは提案書作成に対して1か国につき年100万ドルの無償資金を供与します。

·       熱帯地域の広大な森林地域の劣化の範囲と程度を把握するため、グーグルアースの活用が一案です。グーグルアースはプログラムがインターネット上で広く公開されている無償のプラットフォームで、誰でも簡単に土地被覆変化の評価を行うことできます。

熱帯地域における森林景観再生(forest landscape guideline:FLR)のためのガイドラインと付随するポリシーブリーフ(共に英語)をダウンロードする

本ワークショップの基調講演及び発表資料をダウンロードする(英語)

基調講演の録画映像およびその他の資料にアクセスする(英語)

関連するSDGs

劣化した景観の再生によって特に山村地域に必要な物や生態系サービスがもたらされ、持続可能な暮らしと雇用が生まれます。

損なわれることのない生態系が、社会が健全であり持続可能性軌道を辿るために重要な役割を果たします。

森林景観の再生によって、植生や寿命の長い林産物に留まる炭素量が増え、気候変動緩和に寄与するでしょう。

FLRは、木やその他の森林構成物を利用して人々と自然が協調的に共存する健全で強靭な生態系を築く包摂的アプローチです。