生物多様性を活かしたコミュニティエンパワーメントと経済発展
2026年6月23日, 横浜
花咲くタホナル(Viguiera dentata)。乾季のミツバチにとって重要な蜜源となり、カンペチェ州タンクチェでの蜂蜜生産を支えている。© Gabriel Torales/ITTO
林業分野における日々の意思決定に生物多様性の視点を組み込むことは、地域のコミュニティと産業の双方を長期的に支える健全で生産的な生態系を育む機会をもたらします。
これは、先日開催されたウェビナー「The Business of Biodiversity(生物多様性ビジネス)」の中心的なメッセージでした。このウェビナーでは、世界の熱帯林が有する豊かな生物多様性の保全と、森林に依存する人々のための経済的機会の創出におけるITTOの豊富な経験が紹介されました。
このウェビナーは、昆明・モントリオール生物多様性枠組(Kunming-Montreal Global Biodiversity Framework: KMGBF)の実施を支援するため、ITTOが生物多様性条約( Convention on Biological Diversity: CDB)事務局、森林管理協議会(Forest Stewardship Council: FSC)、および持続可能な林業イニシアチブ(Sustainable Forestry Initiative: SFI)と共同で開催したものです。
イベントでは、ラモン・カリーオITTOプロジェクトマネージャーが、メキシコ・ユカタン半島で実施されたITTOプロジェクトについて紹介し、地域の動植物の保全と持続可能な利用が、生計向上と持続可能な森林経営の強化にどのように貢献しているかを説明しました。
この発表は、林業分野における持続可能な慣行の主流化に関する幅広い議論の中で行われたもので、世界各地の専門家がウェビナーに参加し、生物多様性への配慮を森林経営、事業慣行、政策枠組にどのように組み込んでいるかについて事例を共有しました。
ユカタン地域のマヤコミュニティと森林を強化
メキシコ湾とカリブ海の間に広がるユカタン半島は、18万1,000平方キロメートルを超える面積を有し、卓越した生物学的・文化的多様性を誇ります。しかし、この豊かな地域は近年、土地利用の変化や生態系の劣化による圧力にさらされています。
同地域では、何世紀にもわたり地域のコミュニティや先住民族が、彼らの生計や文化的な活力を支えてきた地元の熱帯林の生物多様性を持続可能に管理・利用するための知識を蓄積してきました。
こうした基盤の上に立ち、ITTOはキンタナ・ロー州およびユカタン州のマヤコミュニティと協力し、地域住民の伝統的知識を活用するとともに、この地域の生物多様性が経済的・社会的・環境的なウェルビーイングにとって重要であることを示しました。
プロジェクトでは、コミュニティ企業によるエコツーリズムや蜂蜜関連製品といった森林を基盤にしたビジネスの拡大を支援し、生物多様性と伝統的知識を持続可能な経済機会へと転換する取組を後押ししました。参加企業には、ビジネスプラン策定、マーケティング、人材育成などに関する個別支援が提供され、事業運営の強化と販路拡大が可能となりました。
その結果、これらの企業はサービスの多様化と市場アクセスの改善を実現することができ、今後の地域コミュニティの所得向上が期待されています。同プロジェクトは、生物多様性の保全が単なる環境上の必要性にとどまらず、強靱な生計手段と包摂的な経済成長の基盤となり得ることを示しました。
ウェビナーでこの取組を紹介したカリーオ氏は、このプロジェクトを「生物多様性の主流化」の実践例として位置づけました。また、生物多様性は持続可能な森林経営と組み合わせることで競争上の優位性となり、生計向上、気候変動対策、社会的包摂を促進する一方で、貴重な地域知識や資源を守ることにつながると強調しました。
「農村地域のコミュニティは長年にわたり、伝統的知識を活用してユカタン半島の熱帯林を守りながら、地域内で雇用を創出し、商品やサービスを生み出してきました。」とカリーオ氏は述べ、地域コミュニティがすでに生物多様性の主流化を実践していることを紹介しました。
国際協力を通じた林業分野への生物多様性の主流化
ウェビナーには、国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization of the United Nations: FAO)およびFSCの専門家も参加し、カリーオ氏とともに林業分野全体への生物多様性の主流化がもたらす可能性について議論しました。議論では、森林に関する協調パートナーシップ(Collaborative Partnership on Forests: CPF)が果たす合意形成の役割に焦点が当てられたほか、認証制度に組み込まれた生物多様性要件が、森林資源の持続可能な利用と管理を促進する手段となり得ることが紹介されました。
また、ブラジル、ケニア、スカンジナビア地域からの事例を取り上げたラウンドテーブル・ディスカッションでは、各国政府、地域コミュニティ、産業界が、生物多様性保全と経済発展の両立に向けてどのように取り組んでいるかが紹介されました。発表者らは、有効な政策、関係者の熱心な参加、そして長期的なコミットメントが、実質的な変化を実現するために不可欠であると強調しました。
イベント全体を通じて、参加者は地域社会からの信頼の獲得と産業界の理解・参画の重要性を繰り返し指摘しました。持続可能な森林経営に支えられた生物多様性保全は、合法かつ持続可能なサプライチェーンを強化し、地域のレジリエンスを高めるとともに、健全な森林景観を支える知識や慣行を維持することにつながります。
熱帯林の生物多様性のためのパートナーシップ
ユカタン半島のプロジェクトは、コミュニティ主体の取組と国際協力を組み合わせるというITTOの生物多様性保全アプローチを象徴する事例です。
その一環として、ITTOと国際自然保護連合(IUCN)は現在、1993年に初版が発行され、2009年に改訂されたガイドラインのさらなる改訂版『熱帯木材生産ランドスケープにおける生物多様性の保全と持続可能な利用のためのガイドライン』(Guidelines for the Conservation and Sustainable Use of Biodiversity in Tropical Timber Production Landscapes)の作業を進めています。改訂版は2026年後半に公表される予定です。
またITTOは最近、生物多様性条約(CBD)事務局との長年にわたる協力関係を更新し、「熱帯林の生物多様性保全のためのITTO/CBD共同イニシアティブ」(Joint ITTO–CBD Collaborative Initiative for Tropical Forest Biodiversity)などを通じて、KMGBFおよびその他の国際的な目標の実施支援に向けた連携を強化しました。
ウェビナーを見逃した方は、以下より録画をご覧いただくことができます。
